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新印象派【下】 ひろしま美術館

色彩理論を伝えた後継者たち

ポール・シニャック「ポルトリュー、グールヴロ」(油彩・キャンバス、1888年)
ポール・シニャック「ポルトリュー、グールヴロ」(油彩・キャンバス、1888年)
ポール・シニャック「ポルトリュー、グールヴロ」(油彩・キャンバス、1888年) フィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」(油彩・キャンバス、1890年)

 スーラの影響を受けて点描の技法を推し進めたのが、シニャックです。特に、珍しい初期の作品が見られるのが、ひろしま美術館。日本では数少ない新印象派の優品をそろえた貴重な美術館です。

 「ポルトリュー、グールヴロ」は、スーラとともに点描法の実験を始めた比較的初期の作品で、細かい点描が見られます。国内にあるシニャックの作品は、モザイクのような大きい点を隙間をあけて並べた後期の作品が多いのですが、それは、隣同士の色が混ざらないようにするための工夫と思われます。同館には後期の「パリ、ポン=ヌフ」もあるので、比較すると面白いですよ。また、シニャックの絵は、実際に見ると結構明るいんです。スーラが目指した「光」の演出に成功したと言えるのではないでしょうか。

 寡黙で秘密主義のスーラに対し、シニャックは社交的で、色彩理論を積極的に人に伝えました。著書も手がけ、描法を後世に残したのは彼の功績の一つです。

 もう一つ、点描のタッチが見られるゴッホの「ドービニーの庭」も見逃せません。実はゴッホも熱心に点描に取り組んだ一人。シニャックと交流があり、スーラを訪ねたこともありました。その後、南仏アルル時代以降に花開く鮮やかな色彩表現は、パリで学んだ新印象派の色彩理論が生かされたと考えられるでしょう。

(聞き手・星亜里紗)


 どんなコレクション?

 新印象派は、スーラ1点、シニャック2点、ピサロ2点。全体のコレクションは、西洋近代画や日本画など約300点に及ぶ。原爆で傷ついた人々に癒やしを感じてもらう目的で、明るい印象派作品を中心に収集したという。美術館設立は1978年。広島銀行の創業100周年を記念して建てられた。今回紹介した2作は常設展示している。

《ひろしま美術館》 広島市中区基町3の2(TEL082・223・2530)。午前9時~午後5時(特別展開催中の(金)は7時まで。入館は30分前まで)。入館料は特別展によって異なる。特別展開催時を除く(月)((祝)の場合は翌日)休み。年末年始は休館。

坂上桂子さん

早稲田大学文学学術院教授 坂上桂子

 さかがみ・けいこ 早稲田大学大学院修了。博士(文学)。新印象派を中心とした美術史が専門。現在のテーマは都市と美術。著書に「ジョルジュ・スーラ」「ベルト・モリゾ」。「ACe建設業界」に「名画に見る土木・建築」を連載中。

(2017年10月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)