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アイヌ民族のアート【上】 平取町立二風谷アイヌ文化博物館

道具に見る 美を求める心

チカラカラペ(明治時代)
チカラカラペ(明治時代)
チカラカラペ(明治時代) メノコマキリ(女性用小刀、明治末期)

 日本の先住民族であるアイヌ民族。東京五輪を機に、その文化を世界に発信しようという動きが強まっています。白老(しらおい)町では、2020年に向け、アイヌ文化を紹介する国立博物館の建設が進んでいます。アイヌ民族の暮らしに息づくアートを紹介しましょう。

 アイヌ民族の伝統的な暮らしを知るには、平取(びらとり)町立二風谷(にぶたに)アイヌ文化博物館がおすすめです。平取町は昔からアイヌ民族が多く住む地域。館では、豊かな自然の中でアイヌ民族が生み出した、様々な生活道具を展示しています。

 展示物を見て驚くのは、装飾性の高さです。明治時代に作られた「チカラカラペ」は、儀礼などで男性が着る晴れ着。本作は本州から交易で入ってきた木綿の布に独自の刺繡(ししゅう)を施したものです。織りや刺繡は昔から女性の手仕事。手の込んだ文様には、夫や息子への愛情がにじみます。

 一方、盆や煙草(たばこ)入れなど、木彫りは男性の手仕事でした。マキリは、狩猟や料理など生活のあらゆる場面で使われた小刀です。鞘(さや)や柄(つか)の黒い部分はサクラの皮で、アイヌ工芸ではよく使われます。

 全てのものに魂が宿る、というのがアイヌ民族の伝統的な考え方。美しく飾ることは、道具に宿る魂をも喜ばせる。そんな美を追い求める心が、様々な文様の装飾を発展させていったのではないでしょうか。

(聞き手・中村茉莉花)


 どんなコレクション?

 二風谷出身で、アイヌ民族初の国会議員にもなった萱野茂(1926~2006)が、1953年から半世紀にわたって収集。衣食住や農耕、狩猟、儀式の道具など、二風谷地域のアイヌ民族のあらゆる生活用具を、作り手や使い手の記録とともに網羅し、2002年には1121点が国の重要有形民俗文化財に指定された。萱野茂二風谷アイヌ資料館に展示されていたが、一部を残し、1992年に開館した当館に移され、常設で展示されている。

《平取町立二風谷アイヌ文化博物館》 北海道平取町二風谷55(TEL01457・2・2892)。午前9時~午後4時半。400円、小中学生150円。11月16日~4月15日の(月)と、12月16日~1月15日休み。

北海道大アイヌ・先住民研究センター准教授 山崎幸治

山崎幸治さん

 やまさき・こうじ 1975年生まれ。専門は、文化人類学。現在、アイヌ民族の物質文化と博物館に関する研究を行っている。共編著に「アイヌ・アートが担う新たな役割」「世界のなかのアイヌ・アート」など。

(2017年10月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)