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茶道具【下】 東京国立博物館

茶の湯の美 価値基準示す

(左)「青磁輪花碗 銘 馬蝗絆」(ばこうはん、正面) 中国・龍泉窯 南宋時代(13世紀) 三井高大氏寄贈 (右)同作品(裏面)
㊧「青磁輪花碗 銘 馬蝗絆」(ばこうはん、正面) 中国・龍泉窯 南宋時代(13世紀) 三井高大氏寄贈 ㊨同作品(裏面)
(左)「青磁輪花碗 銘 馬蝗絆」(ばこうはん、正面) 中国・龍泉窯 南宋時代(13世紀) 三井高大氏寄贈 (右)同作品(裏面) 片桐石州作「竹茶杓 銘 稲羽州サマ」 江戸時代(17世紀) 松永安左エ門氏寄贈

 東京国立博物館が所蔵する茶道具は、茶の湯の美術に関する価値基準を示すような名品が多く見られます。青磁茶碗(ちゃわん)「馬蝗絆(ばこうはん)」はその代表格。南宋時代に中国の龍泉窯(りゅうせんよう)で焼かれ、足利義政(1436~90)が所持したといわれます。ひび割れたので、義政が中国に送って代わりを求めたが、これほどの茶碗は再び作れないと、割れた所に鎹(かすがい)を打って送り返された。それが馬の尻尾にとまった蝗(いなご)に見えるため「馬蝗絆」と名が付いたという逸話があります。

 このひびを見ると、寒い時期にいきなり熱いお湯を入れてひび割れたように思います。もし傷や鎹が無ければ、完全無欠な茶碗です。しかし、果たしてここまで心に留(とど)まるものがあるでしょうか? 傷と鎹があることによって、茶碗に対する親近感やいとおしさが増し、青の美しさも一層際立つ。これはまさに「侘(わ)び」の心なのです。

 竹茶杓(たけちゃしゃく)は、江戸初期、武家の茶の規範を成した片桐石州が削り、江戸後期の大名茶人・松平不昧(ふまい)の手元にありました。景色のない白竹が使われ、少し細身。凜(りん)とした緊張感を携え、まるで真剣の白刃か、抽象彫刻のよう。茶会では、客が亭主にどんな道具を使ったか尋ねる場面がありますが、茶杓は一番最後。そこに亭主の気合が感じられると「今日はいい茶会に呼ばれた」と、晴れ晴れとした気持ちになります。茶杓は茶人の刀、大切な道具です。

(聞き手・笹木菜々子)


 どんなコレクション?

 松平不昧を筆頭とする松江藩主松平家のコレクションや、数寄者で実業家の松永耳庵(じあん、本名は安左エ門)の収集品など、茶道具の名品がそろう。本館4室「茶の美術」では、年数回の展示替えをしながら、四季折々の茶道具を常設展示している。
 「馬蝗絆」は平成館企画展示室の特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがたり」(12月5日~2018年1月28日)で展示。「茶杓」は本館4室で12月25日まで展示。

《東京国立博物館》 東京都台東区上野公園13の9。午前9時半~午後5時((金)(土)は9時まで。入館は30分前まで)。620円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)と12月26日~1月1日休み。問い合わせは03・5777・8600。

千宗屋さん

武者小路千家15代家元後嗣(こうし) 千宗屋

 せん・そうおく 1975年生まれ。武者小路千家は、茶道三千家の一つ。慶応義塾大大学院修士課程修了。茶道具だけでなく古美術や現代アートにも造詣(ぞうけい)が深い。著書に「茶 利休と今をつなぐ」など。

(2017年11月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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