明治から現代までの日本の油彩画の歴史をたどることができるのは、東京国立近代美術館です。
開国以後、日本の画家たちは西洋画を積極的に学びますが、急激な欧化政策の反動で、その後、国粋主義的な風潮が一時高まります。1889(明治22)年に開校した東京美術学校(現・東京芸術大学)でも、当初、西洋画科はありませんでした。そのような時代に西洋画を日本に根付かせようとしたのが原田直次郎(1863~99)です。ドイツ・ミュンヘンの美術学校で油彩画を学んだ原田は90年、産業振興を目的とした内国勧業博覧会の美術展に「騎龍観音」を出品しました。
縦2・72メートル、横1・81メートルという大きさは今見ても驚きます。油彩ならではの写実描写とドラマチックな明暗表現で、日本的な題材に挑んだ意欲作。西洋の宗教画や歴史画を意識し、日本には西洋と異なる文化的背景があることを示したのではないでしょうか。この年は、大日本帝国憲法のもと第1回帝国議会が開会。堂々と勇ましく前進する龍と観音は、近代国家を目指す当時の日本の姿にも重なります。
それから約20年後の作品が、川上涼花(りょうか)(1887~1921)の「鉄路」です。画面上部に向かって縦に貫く線路を疾走する列車。後期印象派や未来派を思わせるタッチで自由に描いています。この頃には、油彩が日本に根付いていたことをうかがわせます。
(聞き手・牧野祥)
★どんなコレクション?
日本の近現代の絵画、版画、彫刻、写真など、所蔵作品は1万3千点を超える。洋画には、重要文化財の萬(よろず)鉄五郎「裸体美人」や岸田劉生「道路と土手と塀(切通之写生)」などがある。日本で最初の国立美術館として、1952年に開館した。
紹介した2作は、約200点を公開する所蔵作品展「MOMATコレクション」で5月27日まで展示。毎日午後2時、対話型のガイドツアーを開催している。
《東京国立近代美術館》 東京都千代田区北の丸公園3の1。午前10時~午後5時((金)(土)は8時まで。入館は30分前まで)。500円、大学生250円。原則(月)と12月28日~1月1日休み。
実践女子大教授 児島薫 こじま・かおる 東京大大学院修士課程修了、修士号取得。ロンドン芸術大で博士号取得。東京国立近代美術館研究員などを経て現職。専門は日本近代美術史。特に官展の作家と美人画について研究。著書に「藤島武二」ほか。 |