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近代日本画【下】 河鍋暁斎記念美術館

人柄が伝わる作品

「布袋の蝉採り図」 紙本墨画淡彩 明治3(1870)年以前
「布袋の蝉採り図」 紙本墨画淡彩 明治3(1870)年以前
「布袋の蝉採り図」 紙本墨画淡彩 明治3(1870)年以前 「暁斎楽画第九号 地獄太夫」 大判錦絵 明治7(1874)年

 そもそも近代日本画は、明治以前から続く狩野派や円山派などの絵画を総称したものです。幕末に活躍した河鍋暁斎(きょうさい)(1831~89)は狩野派に学んだ後、様々な手法を取り入れ、狩野派や戯画のほか、書画会で即興で描く「席画」など、多彩な作品を手がけました。弟子には英の建築家ジョサイア・コンドルら。暁斎は海外でも人気で、コレクターも多く、大英博物館で個展が開かれるほど今でも人気です。

 河鍋暁斎記念美術館は、暁斎のひ孫にあたる河鍋楠美(くすみ)さん(86)が、作品の魅力を国内にも広める目的で開館しました。下絵や本画、錦絵などがあり、画家の人柄がわかる作品が見られます。

 「布袋(ほてい)の蝉(せみ)採り図」は暁斎ならではのユーモアで描かれています。中国の仏僧、布袋は子どもと一緒に描かれることが多いモチーフですが、彼は布袋を子どもの姿で描くことで、ほほえましい瞬間を表現しています。見たものを瞬時に捉え、筆を走らせる。この作品も迷いの無い筆致です。

 「暁斎楽画第九号 地獄太夫」は錦絵「暁斎楽画」シリーズの一枚です。骸骨や、仏教の法具を遊女の周りに隅々まで描き、一休和尚にまつわる物語を表現しています。

 江戸~明治を生きた暁斎。絵には時代の変化による熱気と混乱が表れています。

(聞き手・吉田愛)


 どんなコレクション?

 河鍋暁斎のひ孫で眼科医の河鍋楠美氏が、自宅を改装し、1977年に開館した。河鍋家に伝わる下絵や画稿を中心に錦絵や墨画、買い戻した肉筆画などを含む約3千点を所蔵。1、2カ月ごとにテーマを変えて企画展を開催する。美術館の役割のほかに、暁斎についての年1回のシンポジウムや、年2回の研究発表も行う。

 「布袋の蝉採り図」と「暁斎楽画第九号 地獄太夫」は、1月5日~2月25日開催の「戌(いぬ)年の心新たに 神様・ほとけ様」展で展示。

《河鍋暁斎記念美術館》 埼玉県蕨市南町4の36の4(TEL048・441・9780)。午前10時~午後4時。500円。(木)と毎月26日~末日、年末年始は1月4日まで休み。

佐藤さん

美術史家、東京芸大教授 佐藤道信

 さとう・どうしん 1956年生まれ。東北大大学院修士課程修了。東京国立文化財研究所などを経て東京芸大勤務。専門は日本近代美術史。主な著書に「日本美術 誕生」「美術のアイデンティティー」ほか。

(2017年12月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)