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ロマン主義【下】 ヤマザキマザック美術館

劇的な色彩と構図の競演

ウジェーヌ・ドラクロワ「シビュラと黄金の小枝」(油彩・キャンバス、1838年)
ウジェーヌ・ドラクロワ「シビュラと黄金の小枝」(油彩・キャンバス、1838年)
ウジェーヌ・ドラクロワ「シビュラと黄金の小枝」(油彩・キャンバス、1838年) テオドール・ジェリコー「突撃する近衛猟騎兵の士官」(油彩・キャンバスに貼った紙、1810~12年)

 18世紀末のフランス革命は、民衆の力で王政を打ち破りました。フランス芸術界でも、権威的な新古典主義に反発し、個人の内面を重んじるロマン主義が興ります。絵画はジェリコーが先駆者となり、ドラクロワが完成させたと言われています。

 両者の作品を見られるのがヤマザキマザック美術館。約300点のコレクションで18~20世紀のフランス美術史を一望できます。

 ドラクロワの「シビュラと黄金の小枝」は、古代ローマの叙事詩が題材。よく見ると、巫女(みこ)の背後には地下の冥界に続く道があります。教養があるドラクロワだからこそ、古典モチーフを想像力豊かに、劇的なタッチで描けたのでしょう。体に巻いたヒマティオン(古代ギリシャの衣服)の鮮やかな赤色も彼らしい。社交的で、文豪ユゴーや音楽家ショパンら他分野のロマン派の仲間も多くいました。

 彼の先輩にあたるのがジェリコーです。「突撃する近衛猟騎兵の士官」は、ルーブル美術館にある大作の下絵。ヤマザキマザック美術館初代館長の故・山崎照幸氏が一目で気に入って購入を決めたそうです。馬好きのジェリコーらしく、躍動感にあふれていますね。

 ロマン主義の大胆な構図や強烈な色彩は、近代絵画の先駆けとなり、のちの印象派にも影響を与えました。

(聞き手・星亜里紗)


 どんなコレクション?

 愛知県の工作機械メーカー、ヤマザキマザックの前会長・山崎照幸(1928~2011)が約40年にわたって収集したコレクションをもとに、2010年に開館。ロココからエコール・ド・パリまでフランス絵画80点を軸に、アール・ヌーボーのガラスや家具など、約300点を所蔵する。内装の壁やシャンデリアは、18~19世紀の宮殿やサロンの雰囲気を再現している。今回紹介した2作は常設展示。

《ヤマザキマザック美術館》 名古屋市東区葵1の19の30(TEL052・937・3737)。午前10時~午後5時半((土)(日)(祝)(休)は5時まで。入館は30分前まで)。1000円、小中高生500円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。

京都精華大教授 島本浣

島本浣先生

 しまもと・かん 2006年から4年間、京都精華大の学長を務める。京都大大学院博士課程修了。専門は18~19世紀のフランス美術史。主な著書に「美術カタログ論 記録・記憶・言説」ほか。

(2018年1月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)