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書【上】 九州国立博物館

王羲之にみる書の神髄

  • 「妹至帖」王羲之筆 (原跡)東晋時代・4世紀、(複製)唐時代・7~8世紀
  • 伝紀貫之筆「高野切(第三種)」 平安時代・11世紀

 IT化とともに進む、筆文字離れ。しかし、「書」は決して遠い存在でも、難解なものでもありません。読めなくても、楽しめる。その魅力を、九州国立博物館「王羲之(おうぎし)と日本の書」に展示される同館所蔵品からひもときます。

 漢字は、中国・殷(いん)の時代の篆(てん)書から、隷書、草書、行書、楷書へと変遷をたどります。隷書が簡素化する過程で、草書と行書の字体を確立したのが、4世紀に活躍した王羲之です。歴代王朝に愛好され、「書聖」と冠される唯一の能書家。特に、唐の皇帝・太宗は「双鉤填墨(そうこうてんぼく)」という技術で精巧に複製させたほど。ただ、王朝交代の戦乱などで真跡は消失し、模本も世界に約10点を残すのみです。

 「妹至帖(まいしじょう)」はその貴重な一点。病弱な妹を気遣う内容が書かれた書簡の一片です。たった2行、17字ではありますが、丸みを帯びたふくよかな線は、書聖たるゆえんがうかがえます。手紙は「卒意の書」と言い、作意が消え、筆者の心のままが映し出されるのです。

 もう一つは、草書を基に日本で独自に発展した仮名の作品です。古筆手鑑(てかがみ)「まつかぜ」は、12葉と小規模ながらも平安の名物切ればかり。巻頭の紀貫之(きのつらゆき)筆とされる古今和歌集の断簡「高野切(こうやぎれ)(第三種)」の筆線は、のびやかで流麗。洗練された仮名の美が見て取れます。

 まずは、絵を楽しむ感覚で書に触れてください。

(聞き手・井本久美)


 どんなコレクション?

 東京、京都、奈良に次いで4番目の国立博物館として2005年に開館。日本古美術を中心に、文化交流の拠点である九州の特性に根ざした文化財を収集する。書跡は、国宝1、重文7を含む61件。コレクション全体では、絵画や陶磁、漆工、考古資料など1千点超。
 特別展「王羲之と日本の書」(2月10日~4月8日)では、日本に現存する王羲之の4点が一堂に(「妹至帖」以外は、宮内庁三の丸尚蔵館、前田育徳会、個人蔵)。展示替えあり。

《九州国立博物館》 福岡県太宰府市石坂4の7の2(TEL050・5542・8600)。午前9時半~午後5時((金)(土)は8時まで。入館は30分前まで)。1600円。2月12日を除く(月)と13日休み。

大東文化大・書道研究所所長 高木茂行

高木さん

 たかき・しげゆき 雅号・聖雨(せいう)。青山杉雨に師事。第73回恩賜賞・日本芸術院賞受賞。日展会員。朝日現代書道二十人展メンバー。専門は漢字。起源から書法を解明し、筆法を鑑賞と実技両面から研究する。著書に「おとなの手習い漢字書道入門」など。

(2018年2月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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