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肖像写真【上】 東京都写真美術館

1930年代の多様な表現に着目

中山岩太「・・・・」 1933年 ゼラチン・シルバー・プリント
中山岩太「・・・・」 1933年 
ゼラチン・シルバー・プリント
中山岩太「・・・・」 1933年 ゼラチン・シルバー・プリント ハナヤ勘兵衛「ナンデェ!!」 1937年 ゼラチン・シルバー・プリント

 19世紀前半に写真が発明されると、庶民の間でも肖像写真を撮る習慣が生まれました。大衆化する一方で、写真は記録なのか芸術なのかという議論が起こります。

 そんな中、20世紀に入ると、写真家たちは写真独自の表現を模索し始めました。東京都写真美術館で3月から開催する「『光画』と新興写真」展は、まさにその時期の作品に焦点を当てています。印画紙の上に物をじかに置き露光するフォトグラムや、フォトモンタージュ(合成写真)など、多様な作品が見られます。日本では「新興写真」と呼ばれ、1930年代に盛んになりました。それをリードしたのが、32~33年に発行された写真雑誌「光画」です。

 同誌の同人・中山岩太(1895~1949)の「・・・・」は、被写体の姿を借りて闇や夢といった想像の世界を表現した斬新な作品。シュールレアリスムに近いですね。中山は、東京美術学校(現東京芸大)の臨時写真科一期生。18年に国費で渡米し、ニューヨークで写真館を開いて成功します。帰国後は関西を拠点に活動し、ハナヤ勘兵衛(1903~91)らと写真団体を結成しました。

 そのハナヤの代表作「ナンデェ!!」は、3枚のネガを合成して動きを表現しています。モデルは、ロシアの戯曲「どん底」の舞台に出ていた俳優の三島雅夫さん。迫力がありますね。

(聞き手・牧野祥)


どんなコレクション?

 写真・映像作品を専門とする日本初の公立美術館。1995年に現在の場所に開館した。黎明(れいめい)期から現代までの国内外の作品や資料など、3万4千点以上を収蔵する。写真作品はオリジナルプリントを中心に収集。毎年テーマを決めて春から秋に開催する「TOPコレクション展」で収蔵品を公開している。

 紹介した2点は、3月6日~5月6日に開催の収蔵展「『光画』と新興写真 モダニズムの日本」で展示。

《東京都写真美術館》 東京都目黒区三田1の13の3(TEL03・3280・0099)。午前10時~午後6時((木)(金)は8時まで。入館は30分前まで)。700円(展覧会により異なる)。(月)((祝)(休)の場合は翌日)と2月26日~3月2日休み。

写真評論家 飯沢耕太郎

飯沢さん

 いいざわ・こうたろう 日大芸術学部写真学科卒、筑波大大学院芸術学研究科博士課程修了。著書に「写真美術館へようこそ」「深読み! 日本写真の超名作100」「キーワードで読む現代日本写真」など。公募展の審査や写真展の企画も手がける。

(2018年2月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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