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新薬師寺(奈良市) 薬師如来坐像

こんにちは、恙(つつが)なくお過ごしですか?

先月よりはじまりました「みふねの観仏三昧」、第二回このほどは、畏れ多くもいま会いたい仏さまをお選びいたしまして、個人的好きポイントをばお届けしたく存じます。

初手はこのお方、奈良は新薬師寺さんの薬師如来さまにおでましいただきましょう!

ご存じ奈良公園一帯は、ぎゅ〜っと魅惑の仏さまが集結なさった、仏(ブツ)好きにはこれ堪らぬ一大聖地となっております。

近鉄奈良駅から興福寺、東大寺とおまいりし、仏像館をメインに奈良国立博物館に遊び、春日大社さん二之鳥居より禰宜道をつたって南へゆけば高畑町、そこに新薬師寺さんはあります。訪(おとな)う折には決ってこの道程をたどり、以前は贅沢にも境内でいただける「ゆばそうめん」をたぐるのも楽しみのひとつでした。

 

春日大社二之鳥居

 

禰宜道

 

かつては広大な寺域を誇ったという新薬師寺さんですが、いまでは往時を偲ぶこぢんまりとした風情です。

 

新薬師寺本堂

 

本堂を入ればすぐに目に飛び込んでくる、まあるい須弥壇のぐるりを躍動感みなぎる十二神将にがっちりと護られた、なんともふくらかで巨なるお薬師さんのお姿!ぴっちりと朱をあらわした唇、きりりと緩みなき双眉にくるんと洒落たお髭も墨黒々と、そして何より、ぽっかりとした両のまなこに目が釘付けになってしまいます。仏にまみえるこちらがかえって「みられている」ようで、手を合せながらも、どうにも視線を外せない。

 

先ずはその特徴的な瞳に着目してみましょう。

 

 

如来さまや菩薩さまのお像はあらかたが半眼ですが、目疾(めや)みにご利生あるみほとけには、お目が際立った方々も少なからずいらっしゃるようです。

浪花節でもおなじみ「〽︎妻は夫をいたわりつ〜 夫は妻に慕いつつ〜」の名句にはじまる浪花亭綾太郎の「壷坂霊験記」(必聴ですよ!)、妻お里の一念が観音さまへ通じ、夫の沢一めでたく開眼と相成るわけですが、その舞台であります壷阪寺の十一面観音さまも、やはりみるものを射竦(いすく)めるがごとき眼光を放っておられます。

話を新薬師寺に戻しますが、当寺は聖武天皇の眼病平癒をご祈念して光明皇后により開かれたそうで、このお薬師さんのどんぐりまなこも、発願をうけた仏師による創意とわざの結実ではないでしょうか。

そしてもうひとつ、お薬師さんの溢れんばかりのパワーは、その体躯のつくりにも所以がありそうです。

 

 

彩色も漆箔も施していない素木のままのお姿が、まるで亭亭とそびえる霊木そのもののようで、精気が堂内を立ち込め、生命のいぶきがほとばしる!あらわな杢目が内なる光を発して照りかがやき、熱を擁する「生身」の存在として、まさにそこに坐すではありませんか!

のどやかに差出された右の御手に招かれたら、あのほってり分厚なお胸にすがりつきたくなるのも無理はありません(笑)。十二神将鉄壁のガードをば突破し、そーっと心の手で触れてみます。なぞる、撫でさする……、己をうつろにして身を重ねれば、触れているのか、はたまた触れられているのか、弾力ある御手に包まれつつ、あまりの気持ちよさに脱・力……。

気がつけば、そこは東方瑠璃光浄土でした。まるまるとしたお薬師さんのお姿さながら、心までもがまどかになる!

みなさま、身にも心にも「効く」お薬師さま、気散じに足を運ばれてみてはいかがでしょうか?

「三昧」とは程遠い、かような凡夫代表を変らず抱きとめてくださるお薬師さまへ、後生ですから、どうか今宵はあなたの腕のなかで眠らせてください。ヤクが切れる前に(笑)、また会いに参ります。

 

 

ひろさわ・みふね 曲師(三味線)。千葉県佐倉市出身。歌舞伎や文楽をきっかけに三味線に興味を抱く。浪曲の定席「木馬亭」で聴いた沢村豊子さんの音に魅了され、2015年に入門。幼いころから仏像が好きで、小学生で土門拳「古寺巡礼」を読みふけり、中学生になると一人高速バスに乗って奈良へたびたび仏像めぐりに。いまも多忙な浪曲口演の合間に仏様に会いに行く日々。

広沢美舟曲師十周年「おかげさまです!の会」開催。

日時 8月11日(月・祝)午後7時開演(午後6時30分開場)

場所 東京都江東区のティアラこうとう小ホール

木戸 予約3000円、当日3500円、18歳以下1000円

予約は名前、来場人数、携帯電話を記して、apkikaku@asahi.com へ。以下のチケットぴあのQRコードでもお買い求めいただけます。

 

◆「みふねの観仏三昧」は毎月第三土曜に配信します。