早稲田大学の卒業論文で「ゆるキャラ論」を書き上げ、全国のイベントに引っ張りだこ。いま最もゆるキャラと人脈（ゆる脈）を築いているソロアイドル寺嶋由芙（ゆっふぃー）さんに〝ゆるキャラのいま〟を聞き、注目してほしいゆるキャラを挙げてもらいました。

　――「ゆるキャラ」という言葉が生まれて20年以上たちました。一時期のブームは落ち着いた感じがありますが、現状をどうとらえていますか？

　ゆるキャラが当たり前の存在になりました。地方創生や地域の知名度をあげる手段のひとつとしてＰＲしたいグルメを設定するのと同様にゆるキャラをつくるのが定番に。でも、過剰に期待も頼りもしない。つくっただけじゃダメだって、みなさん十分知っていらっしゃる。

　つくるからには活用したい。愛着もわきます。ゆるキャラの設定づくりから地域の特性や個性も見えてくる。グルメと違った角度で全国の方と交流が図れるので、可能性も広がります。一時期のバブル的なものではなく、ゆるキャラをつくる現実的なメリットが蓄積されていると感じます。

　ひこにゃん、くまモン、ふなっしーが巻き起こした一大ブームは去り、コロナもあって、みんないなくなってしまうんじゃないかと心配しました。でも、そんなことはなく、いまもたくさんの子に会えるのがうれしいです。

　造形的には、引き算のデザインがトレンドでしょうか。ゆるキャラという言葉が生まれた前後は地域の名産や名物を「全部のせ」のキャラが目立ちました。青森県つがる市のつがーるちゃんが典型で、体のパーツがコメ、スイカ、トマト、ゴボウ、リンゴ、ネギ、メロン、ナガイモで出来ています。ごちゃまぜ感、整理されていない感じが面白がられたし、可愛かった。でも盛りすぎてここぞのアピールポイントが伝わりにくい、そんな反省からか、引き算のシンプルなデザインが増えているように感じますね。

　――ゆるキャラを巡る面白い動きはありますか？

　最近画期的と感じたのは、東尋坊で有名な福井県坂井市の「坂井ほや丸」です。

　去年の秋にキャラクターをつくることが発表されました。そのあと、普通なら地元の子どもたちや市民にイメージした絵を描いてもらって公募したり、プロのデザイナーに依頼したりするのですが、違いました。名前も何も決まっていない段階で坂井市の方がゆるキャラのイベントでチラシを巻いたんです、「ファンの意見を採り入れたいからオンライン会議に参加してほしい」って。

　イベントに足を運ぶ我々みたいな熱量が高い人にとって、そんな会議、楽しいに決まってるじゃないですか。私も参加しました。いま人気のキャラや個人的に気になるキャラをオンラインでわいわいがやがやしつつ、坂井市の新しいキャラについて意見を交わしました。「方言を使うと可愛い」とか「東尋坊はアイコンとして強いからどこかに入れよう」とか。東尋坊の崖は犯人を追い詰めるイメージという意見から「特技：探偵（見習い）」にした一方、愛すべき弱点もほしいと「高いところが苦手でふるえてしまう」という設定に。着ぐるみにしたときの可動域についても議論しました、踊れるのも人気者になる大事なポイントなので。

　様々な意見を吸い上げて、坂井ほや丸が生まれました。３月下旬にお披露目されたばかりですが、ゆるキャラ好きが誕生前の卵の状態から見守っているわけで注目度は高く、すでにＸ（旧ツイッター）のフォローも多くて。

　――ゆるキャラファンの集合知の結晶ですね。

　そうなんです、なんていい企画！って思いました。参加型のプロジェクトって今っぽいですよね。お披露目前から知っていて愛着がわく。ほや丸が「ゆっふぃーちゃんも僕の親の一人だからね」みたいに言うから「うちの子、応援しなきゃ」ってなるし、坂井市に行きたくもなります。生まれる前からファンに届いているゆるキャラは初めてじゃないかな。デビュー前から見守って思い入れが深まるのはアイドルのオーディション番組に近いのかも。

　　　　　　　　　　　　　　坂井市出身で元モーニング娘。の高橋愛さんと

　ちなみに、ほや丸を描いたのは愛媛県今治市の「バリィさん」をデザインされた宮田麻子さん。ゆるキャラファンは「バリィさんママ」と呼んでいますが、そのバリィさんママが生みの親というのも、ほや丸のブランディングのひとつですね。バリィさんは頭に来島海峡大橋をイメージした冠を載せていて、ほや丸は東尋坊風の帽子をかぶってます。

【ゆっふぃーオススメゆるキャラ選】

①うなりくん（千葉県成田市）

　うなり星からやってきて今年15周年。成田山のお不動さんとか歌舞伎とかほかに成田市を象徴するものがあるのに、あえてウナギ、しかも成田空港にちなんで飛行機と合体しています。どう見てもペンギンなのにうなり星人と言い張っているのが素敵です。魅力は誠実さ。奇をてらったことをせずに地道に活動していて、ゆるキャラのお手本のような存在だから。私はアイドルになる前からただのうなりくんファンで、ライブにも何度もゲストで来てもらっています。 

②昆布ブラザーズ（岩手県普代村）

　こちらは今年10周年です。昆布で二つのキャラをつくるのがすごくないですか？！昆布とわかめ、ならわかるけど、両方とも昆布。加工法の違う塩蔵昆布とすき昆布にちなんでいます。「ブラザーズ」と名乗っていますが、兄貴分「えんぞー」と弟分「すっきぃ」は幼なじみ。私は2020年に岩手でゆるキャラグランプリが開かれたときに知り合いました。それ以前のゆるキャラグランプリには出ていなくて「地元開催なら」と初めての出場だったらしいのですが、あまりにシュールなビジュアルと動きの面白さは衝撃でした。 

③うなも（静岡県浜松市）

　自治体のご当地キャラではなく、うなぎいも協同組合がつくったゆるキャラです。ウナギの骨や皮を肥料に育てたさつまいもが「うなぎいも」だそうです。ひとつの品物をＰＲする役割のわかりやすさがいいし、東京にさつまいもスイーツの店を出すほど成功しているのも尊敬します。活動がちょっとアイドルっぽくて、配信したりファンを招いたイベントをやったり。声がねむきゅん（元でんぱ組ｉｎｃ．メンバーの夢眠ねむさん）に似ています。

④原宿みっころ（東京都）

　お菓子系だと、コロンバンさんの「原宿みっころ」ちゃんとお近づきになる機会が近ごろ多かったですね。コロンバンさんは今年創業100周年で、会社として大事なタイミングでみっころちゃんも力が入っているようです。私がお世話になっているテイチクさんのキャラクター「こぶしまる」と仲良し。以前、テイチクさんの社屋が原宿にあって、コロンバンさんとご近所だったご縁です。 

⑤ぐんまちゃん（群馬県）

　活動開始から30年、草分け中の草分けですが、いまめっちゃ輝いています。歴史が長いし、ゆるキャライベントにいるのが当たり前でありつつ、ひこにゃんみたいな「お越しになったぞ」的な大物ともちがったポジションにいたのですが、ここ数年、めきめきと存在感を示しています。県をあげてプロモーションに力を入れているんです。長く愛されているんだし、もっと注目してほしいので、ファンとしてもうれしいです。アニメや配信が始まり、首都圏はもちろん、札幌や福岡にもキャラバン隊を組んででかけています。特に子どもたちのファンを増やしたいそうです。

　アニメ化で「あおま」と「みーみ」という新たな友達が生まれました。やんちゃなあおまとしっかり者のみーみが現れたことで、ぐんまちゃんのおとぼけ感がより強調され、魅力が増しました。アイドルがグループの中でのポジションや関係性萌えでより輝くとの同じですね。 

⑥わるにゃんこ将軍（滋賀県彦根市）

　一周回って、いや、何周回ったかわからないのですが……、ひこにゃん関連です。わるにゃんこ将軍という新キャラが去年、着ぐるみでお披露目されました。原作者はひこにゃんと同じ「もへろん」さん。ひこにゃんのふりをして悪さするライバルの出現で、ひこにゃんの穏やかさ、優しさ、尊さが際立つことになり、改めてひこにゃんの存在感が爆上がりしています。十分に確立された唯一無二のひこにゃんの世界観にここに来て新しいキャラクターを登場させるのは、ものすごい冒険ですよね。 

　　　　　　　　©彦根市

⑦ふるさとチョイタ

　ちょっと変わったゆるキャラです。ふるさと納税のポータルサイト「ふるさとチョイス」のキャラクター。全国各地の地域の魅力を発信するポータルサイトのゆるキャラってメタ的です。タヌキなので各地域の特色に合わせて化け、土地の魅力を全国に紹介する。日本全国の“ふるさと“に化ける魔法が使えて、ふるさとの魅力を世に広める頼れる立場なのに腰が低いのも面白い。「あなたのまちのいいところ、教えてください」という姿勢なんです。

⑧わくたまくん（石川県・和倉温泉）

　能登半島の和倉温泉のキャラクターです。震災のあと、わくたまくんのアカウントを通して被災状況や支援の情報が全国に発信されました。和倉温泉の関係者や温泉に親しみを持つ人、ゆるキャラファンで長年育ててきたネットワーク、信頼感がいざというときにいかされたんです。知人、友人はいなくても、わくたまくんの町だと思ったら、ひとごととして見過ごせない。その地域に愛着、関心がある人たちに届くのは効果的だったでしょうし、ゆるキャラが存在する意味、意義を再確認しました。 いまクラウドファンディング（https://readyfor.jp/projects/wakuraonsen?sns_share_token=dcf4c819049fb33cdcfd）にも取り組んでいます。