家具量販店大手のニトリホールディングスは、京都左京区にある国の名勝「對龍(たいりゅう)山荘庭園」の一般公開を始めた。近代日本庭園の先駆者とされる七代目小川治兵衛(じへい)が手がけた庭は、背後に広がる東山の稜線(りょうせん)と一体となった広がり、くつろぎのある景色が味わえる。
山荘は1896年に薩摩出身の実業家、伊集院兼常が庭園すぐ東側にある南禅寺の塔頭(たっちゅう)跡地に造営。その後、彦根出身の呉服商、市田弥一郎が譲り受け、小川治兵衛が庭園を改修した。建物を含めて約6千平方㍍もある広大な敷地を生かし、東山の稜線との連続性を意識して樹木を整え、琵琶湖疏水から引き込んだ水が屋敷に向かって流れ下る水路や池を設けた。大きな池にせり出して建てられた對龍台の書院に座ると、水車小屋から流れ落ちる滝が見え、紅葉が進む木々の奥に東山の山並みが続く開放感のある眺めが楽しめる。京都大学の宗本順三・名誉教授は「小川の美意識と明治の造園技術を存分につぎ込みつつ、当時は珍しかった芝生広場を設けて西洋との融合を図るなど、意欲的な試みが見られる点で、この庭園はすばらしい」と評価する。
ニトリホールディングスは2010年に山荘を取得し、国の補助も受けて再整備を進めてきた。昨年8月に建物が国の重要文化財に指定。取引先の接待などに利用していたが、維持管理の方法に目途がつき、一般公開に踏み切った。11月13日には似鳥昭雄・代表取締役会長が現地であったメディア説明会に出席。「大きな買い物ですから、取得時は夢に出るくらい悩みました。これだけ美しい庭園は広く社会の皆様にご覧いただいてこそ価値があり、次の世代にも継承していけると考えました」と一般公開の理由を明かした。
山荘はすぐ東側に南禅寺があり、周りには美しい庭園を持つ別荘や料亭が連なる。それらのほとんどは非公開だが、ニトリホールディングスは、庭園だけではなく今年8月に国の重要文化財に指定された「對龍台」を含む建築部分も来春から一般公開する。北海道小樽市で美術館を運営する同社グループが所蔵する美術品を展示する計画もある。
「通路が狭くコケの保全といった課題も多い。一般公開には反対意見もありました。外国人観光客が飛び石を上手に歩くのは難しいかもしれませんが、京都は日本の歴史文化の発信地。広く社会に貢献するという使命感を持ち、知恵を出し合って進みたい」と似鳥会長は話していた。
京都市左京区南禅寺福地町22。地下鉄蹴上(けあげ)駅から徒歩約10分。入場料は2千円(現金のみ)。予約なしで入場できるが、開園日、受け付け時間は對龍山荘のWEBページ(https://tairyu-sanso.jp/)で確認。