店の一角にある人形焼の焼き場は、掘りごたつのようになっている。北海道・十勝産の小豆を使って軟らかく炊いた自家製のこしあんを生地の中に絞り入れる。
明治40(1907)年の創業当時から、手焼きを守っている。手焼きの良さは、その日の天候や気温などによって微妙な加減ができるところ。「焼きたてある?」と声がかかれば、必ず応じている。 初代は元々乾物屋だった。近くには水天宮など「日本橋七福神」があり、「参拝客に何か名物を」と考えた。大阪の知人から教わった釣り鐘形のまんじゅうにヒントを得て考案したのが、七福神を模した板倉屋の人形焼。
焼き場の壁には戦時中の金属供出を免れた鉄製の焼き型がずらりと下がり、一部は今も使われている。3代目の藤井義己さん(64)が店を継ぐ決心をしたのは19歳の時。店にいた手だれの渡り職人から焼き方などを学んだ。40年以上酷使した両肩は手術をし、ボルトが埋め込まれている。それでも続けるのは「先代から続く名物を守る」という職人の心意気だ。
(文・写真 根津香菜子)
◆東京都中央区日本橋人形町2の4の2(TEL03・3667・4818)。午前9時~午後5時(売り切れ次第終了)。日曜定休。人形町駅。