隅田川東岸の向島。江戸時代は大名の下屋敷が、明治時代は料亭や別荘が点在し、文化人も集った。その一帯でお茶菓子として野菜の砂糖漬けが親しまれていた。梅鉢(うめばち)屋は日本橋にあった江戸前の砂糖漬け屋「伊勢一(いせいち)」が、のれん分けを繰り返し、1915年に創業した。関東では唯一残る老舗だ。3代目の丸山壮伊知(そういち)さん(61)が店主を務める。
厨房(ちゅうぼう)には、5個の鍋がならび、一口大にカットしたダイコンやナスなどの野菜が砂糖のみで煮詰められている。ダイコンは約5日、ナスは約1週間ほど煮込んでいる。
野菜は丸山さん自ら築地市場で吟味する。砂糖漬けには味が濃い品種が向いているという。煮る時間は野菜の産地や形状などに合わせて調整する。砂糖の濃度が高すぎると固くなり、低すぎるとベタベタに。「野菜の顔色をうかがいながら煮詰めるのが仕事です」と丸山さんは語る。
初代の祖父の代よりも野菜は増え、21種を手がけてきた。お客さんの要望でトマトやゴーヤーなども商品化した。今も新しい野菜に挑戦している。
(文・写真 佐藤直子)
◆東京都墨田区八広2の37の8(TEL03・3617・2373)。午前9時~午後6時。日・祝、第2第4月曜定休。小村井駅。