東京大学近く、本郷通りから坂道を下ると三角屋根の洋館が見えてくる。緑のひさしに金色で「珈琲金魚坂」と書かれている。本郷で350年以上続く金魚の卸問屋「吉田晴亮(せいすけ)商店」はここにある。塀の内側には水量約50トンの池が細かく仕切られ、らんちゅうや和金など様々な金魚が泳いでいる。
7代目吉田智子さんは、2000年に先代の夫・晴亮さんが亡くなり経営を引き継いだ。その際、コイの池があった場所を、金魚好きが集える喫茶・イベントスペース「金魚坂」につくり替えた。
初代は江戸時代、加賀藩の上屋敷に金魚を卸していたという。明治時代は花柳界が得意先、大正時代は庶民が飼うように。最盛期の昭和30年代は、売り子がおけを担いで都内や関東へ売り歩いていた。現在は、国内外の養魚場や市場から仕入れ、金魚すくいの金魚から観賞用まで全国に卸している。
よい金魚は体の表面にぬめりがあるという。「金魚は子どもみたいなもの。手をかけないで目をかけるんです」と吉田さん。「金魚の歴史をつないでいきたい」とほほ笑んだ。
(文・写真 石井久美子)
◆東京都文京区本郷5の3の15(問い合わせは03・3814・5951)。金魚坂は午前11時半~午後9時半((土)(日)(祝)は8時まで)。(月)・第3(火)休み。本郷三丁目駅。