カシャンカシャンカシャン――。小さな店の奥から活版印刷機の音が響く。
中村活字は、鉛合金から鋳造した活字で活版印刷を手がける。職人が印刷機で刷るため、凹凸感やインクのにじみ、かすれなど、昔ながらの風合いが人気で、国内外から客が訪れる。
中央区は印刷業が盛んで、1945年に160軒の活版印刷の工場があった。
創業は1910(明治43)年。かつては活字だけを近隣の印刷業者に製造・販売していた。60年代には十数人の職人が働き、値段は小さいサイズの活字1本が3~5円だったという。しかし、75年ごろからオフセット印刷が主流になると、徐々に需要が減った。印刷機を導入し、一時は企業の下請けとしてチラシや伝票などを手がけたが、今は個人客を中心に名刺やショップカードを印刷している。
手作りのぬくもり感が若者に受け、約10年前から「活版ブーム」が続く。5代目の中村明久さん(68)は「私の仕事を評価するのは、注文主から名刺を受け取った人」とほほえんだ。
(文・写真 吉田愛)
◆東京都中央区銀座2の13の7(問い合わせは03・3541・6563)。午前8時半~午後5時。(土)(日)(祝)定休。東銀座駅。