創業は1877(明治10)年。広島藩の江戸詰藩士だった初代吉益(よします)啓蔵が明治維新を機に、いなり寿司の屋台に転業。「明治座など芝居小屋周辺には飲食の屋台が並んでいたそうです」と5代目の吉益敬容(たかひろ)さん(46)。
代々こだわってきたのは、酢飯が透けるほど薄い油揚げだ。埼玉のなじみの豆腐屋から仕入れたパリパリの油揚げを大釜でゆで、油抜きを行い、油の含有量を均等にする。赤、白2種のざらめと黒糖、しょうゆ、みりんのタレで煮る。先代はこのあと、タレに1日漬けていた。薄い油揚げはタレにほどよく絡み、冷ましていく過程で味が染みこむ。創業からの味を守るため、その時代の調味料に合わせて「今は3日間漬け込んでいます」と吉益さん。少なめの水で炊き、多めの酢を混ぜた米を使うのも特徴だ。
百貨店や大手スーパーなどへ卸すため、毎日午前0時から7時まで3人で仕込みや酢飯を包む作業を行う。1日約2千個を作る。ひっそりと寝静まった人形町に甘辛い香りが今日も漂う。
(文・写真 佐藤直子)
◆東京都中央区日本橋人形町2の10の10(TEL03・5614・9300)。午前9時~午後7時。人形町駅。