北品川の北馬場参道通り商店街。戸を開け放った1階作業場をのぞくと、イグサを織った「表(おもて)」と「床(とこ)」を黙々と縫い付ける姿が見える。1761(宝暦11)年創業の湊(みなと)屋加藤畳店の14代目加藤丈幸さん(54)だ。江戸時代に宿場町だった品川には貸座敷が多く、当時、畳の張り替えの4割を湊屋が担っていたと言われる。
加藤さんは家業を継ぐため18歳で修業に出たが、苦労は想像以上だったという。重労働な上に細かな作業が多い。出来上がった畳がガタつかないように、部屋の曲がりを独特の方法で計算するなど数学的なセンスも必要だ。計算が合わず、依頼主の家に寸法を取り直しに行ったことも。「不器用で何度も怒られたからこそ、繰り返しやったことが体に染みついた」と振り返る。
畳のある家は減っているが、最近は畳に布団を敷いて寝たいという若者も多い。付近には船宿が数件あり、春の花見に夏の花火、忘年会に合わせて屋形船から注文が入る。今も昔も江戸っ子は、イグサの香る畳でくつろぐのが好きなようだ。
(文・写真 井上優子)
◆東京都品川区北品川2の9の27(TEL03・3471・3968)。午前8時~午後6時。(日)定休。新馬場駅。1畳6480円~。