旧東海道の宿場町、平塚。八王子道や中原往還などの脇街道が通ることから、交通の要衝として栄え、多くの商人が暖簾(のれん)を掲げた。
鎮守「平塚八幡宮」の表参道にある、1909(明治42)年創業のはんこ屋「東曜印房」もその一軒。店頭の一角で、日に3~5本のペースで作業を進めるのは4代目・水嶋祥貴(あき)さん(41)。創業者の曽祖父と2代目の祖父から職人の気立てを、一昨年に亡くなった3代目の父からは経営の心を受け継ぎ、現在は職人と経営者の二足の草鞋(わらじ)を履いて店を守っている。
はんこ職人が腕を競う「第20回全国印章技術大競技会・木口密刻の部」(全日本印章業協会主催)で、最高賞にあたる厚生労働大臣賞を受賞。普段、実用印を主軸とするはんこ屋にとって、文字と絵柄を芸術的に調和させる密刻は、あくまで本番前の練習だという。
「人生における要所や節目で必要になるのがはんこ。その大切な一本を発注してくださるお客様に、きちんとした技術でお返しするためにも、学びと鍛錬を一生続けていきたい」と祥貴さん。
(文・写真 井本久美)
◆神奈川県平塚市明石町1の5(TEL0463・21・0181)。午前9時~午後7時((土)は10時~6時)。(日)(祝)休み。平塚駅。