深さ1・5センチほどの鉄鍋で角切りの牛肉と江戸甘味噌(あまみそ)がぐつぐつ煮え、香ばしい匂いが広がった。仲居さんが手際よく、千住葱(ねぎ)や焼き豆腐などを加えていく。
「太田なわのれん」は1868(明治元)年に、浅い鉄鍋を使う牛鍋屋として創業した。59年の横浜港開港後、居留外国人から西洋の食文化が伝わり、牛肉を出す店ができ始めた頃だ。71年、明治天皇が肉食を解禁。牛肉を大っぴらに食べられるようになり、牛鍋は一躍ブームに。7代目店主の青井茂樹さん(64)は「初代からのみそ仕立てがうちの特徴です」。当時、ごはん1杯2銭に対し、牛鍋1人前は5銭だったという。
茂樹さんが店を継いだのはバブル期の1989年。客の8割が接待利用だった。バブル崩壊後は客足が一時遠のいたが、96年に思い切って店を木造から鉄筋に建て替えた。食材にもこだわり、山形牛を中心とした和牛を仕入れる。
現在は2人の息子も共に働く。長男の勇人(はやと)さん(32)は8代目として経営を学び、次男の大和さん(29)は料理を修業中だ。
(文・写真 牧野祥)
◆横浜市中区末吉町1の15(TEL045・261・0636)。午後5時~10時((土)(日)(祝)は正午~3時と5時~9時)。(月)と12、1月を除く第1・3(日)休み。日ノ出町駅。