そこかしこに寺社が立つ東上野の一角に、1652(慶安5)年創業の石井三太夫表具店はある。京都・東本願寺の御用表具師だったとされる初代石井三太夫が江戸へ移り360年余、掛け軸や屛風(びょうぶ)、襖(ふすま)などの表具制作を続けている。寺や、書家などの個人から依頼される新規の注文に加え、国重要文化財の池上本門寺宝塔の天井絵などの修復も手がける。「世に一つのものを預かる仕事。緊張感はありますよ」と、15代目で「現代の名工」の石井弘芳さん(73)。
紙、布、糊(のり)というシンプルな材料で、加湿と乾燥を繰り返す複雑な工程を経て作られる表具。金襴(きんらん)を多用する「雅(みやび)」な京表具に対し、江戸表具は「粋(いき)」が基本。工房にある約500種の裂地(きれじ)から組み合わせて表現する。「日蓮聖人の書を表装したときは、聖人本人に聞くような気持ちで裂地を決めました」
30人以上の弟子を育てるなど後進育成にも尽力する。現在は、息子で16代目の高弘さん(47)と2人の職人と共に、伝統を守りながら新しいやり方も取り入れる気概だ。
(文・写真 安達麻里子)
◆台東区東上野5の4の5(TEL03・3844・6224)。午前8時15分~午後6時。(日)、第3(土)(5、8、12~2月を除く)休み。稲荷町駅