千葉県・房総半島の南、緑豊かな里山に一軒の工房がたたずむ。房州うちわの伝統を守る太田屋だ。8畳の床は骨組みが山積みになっている。2~4月が最盛期だという。
房州うちわは、国指定の伝統的工芸品で、丸亀うちわ、京うちわと並び、日本三大うちわの一つ。柄と扇部の骨は1本の竹からできている。
4代目の太田美津江さん(66)は半島南部で採れる女竹(めだけ)を使い、他の専門職人の手を借りながら竹選別、もみ、穴あけなど21の工程を経て作る。元々は江戸うちわと称し江戸時代に江戸の地場産業として繁栄。だが明治から大正にかけ、原料の竹の産地、房州に職人が移住した。曽祖父が始めた太田屋もその一つ。戦後に父が引き継ぎ、父を手伝ううちに技を習得した。
昭和30年代は年間約10万本作っていたが、扇風機の普及で注文が低迷。約20年後、浴衣の生地を貼った品を扱い始めると、人気が復活した。
太田さんは今、障害者の作業所で週に1回講習を行う。「教え子たちが伝統工芸士になるまで元気でいたい」と話す。
(文・写真 石井広子)
◆千葉県南房総市富浦町多田良1193(TEL0470・33・2792)。午前9時~午後6時。不定休。富浦駅から車。