モダンな模様、安価で丈夫な生地。「大正ロマン」の代名詞とされる絹の平織物、銘仙は、女性の普段着の和服地に用いられ大流行した。養蚕業が盛んだった秩父は大正~昭和期、栃木・足利、群馬・桐生、伊勢崎、東京・八王子と並ぶ産地として知られた。
1927(昭和2)年創業。数年後に力織機の導入で生産量が伸び、最盛期には年間で着物1万人分にあたる1万反を手掛けた。「生産が間に合わず、卸売業者が工場で完成を待っていた」と2代目の逸見敏さん(85)は懐かしむ。
秩父で考案された技術「ほぐし捺染(なっせん)」を受け継ぐ。染めを施した経(たて)糸に緯(よこ)糸を織り込むことで、着物の表と裏が同じ柄になる。糸の色の重なりが、見る角度によって変化する玉虫効果も特徴だ。
そんな特徴を生かして、3代目の恭子さん(50)は今、秩父銘仙の生地を用いた小物の商品化に乗り出している。「ポップな色柄は暮らしに取り入れやすい。裏表の無い生地は、扇子やストール向きかも」。職人の高齢化や後継者不足に直面する業界に、新しい風を送り込む。
(文・写真 木谷恵吏)
◆埼玉県秩父市黒谷1463(TEL0494・22・0708)。小物を販売する店舗は同市本町3の1、秩父ふるさと館。午前10時~午後5時。(水)休み。秩父駅。