野口鍛冶(かじ)店は1887(明治20)年に創業し、農具を作ってきた。現在は鎌や鍬(くわ)など約100種もの農具を販売するほか、主に修理の時には炉に火を入れ、金槌(かなづち)を振るう。4代目の野口広男さん(70)は「『野鍛冶』製品は工芸品じゃないから使ってナンボ」と話す。
店の棚ではオリジナルの農業用刃物「野口式」が異彩を放つ。機械化の波で需要が減りつつあった1960年代、広男さんの父、3代目の孝一さんが商品化を始めた。農家が楽に、効率的に草刈りができる道具を、と「両刃鎌」は三角形の2辺に刃を施した。「柔らかい実を傷つけずに片手で収穫したい」と言うキュウリ農家の声から生まれた商品もある。広男さんが考案した堅いカボチャを安全に切る包丁は大手スーパーに採用された。
安価な類似品に追いかけられるが、「負けないように品質を保ちたい」と広男さん。「両刃鎌」は木製の柄の曲がりを調整し、細部にこだわって仕上げる。「認めてくれるお客さんがいるから努力を重ねないと」
(文・写真 井上優子)
◆埼玉県久喜市菖蒲町三箇760の1(TEL0480・85・0422)。午前8時~午後6時。(日)(祝)(休)休み。久喜駅。