下町風情漂う深川地区の森下に、「元祖カレーパン」を看板商品に掲げるパン屋がある。
創業は1877(明治10)年。当時は「名花堂」の名前で店を構えていた。1923年、関東大震災で店が全焼。再建のためヒット商品が必要だった。2代目の中田豊治さんは、洋食ブームに目を付け、人気のあったカレーライスとカツレツをパンに応用。27年、「洋食パン」の名で発売すると人気商品になった。
「万人に親しまれるシンプルで優しい味です」と話すのは、5代目の豊隆さん(64)。たっぷり詰まった具は当時から変わらず、タマネギ、ニンジン、豚ひき肉など。新鮮な綿実油とサラダ油を使い、カラッと揚げる。1日3回の揚げたてが並ぶ時間には、客が列を作る。平日は約800個、土曜には1200個ほど売れる。他に、あんパンやシベリアなども人気だ。下町のパン屋では、しゃれたパンより定番品が喜ばれる。「新しいことを始めるのはすてきなことですが、伝統を守るのもまた同じようにすてきなことです」
(文・写真 秦れんな)
◆東京都江東区森下1丁目6の10(TEL03・3635・1464)。午前7時~午後7時((祝)(休)は午前8時~午後6時)。(日)と(祝)(休)の(月)休み。森下駅。