丸いひさしの下のガラス戸を開けて店に入ると、香ばしい香りに包まれた。1階はシャンデリアが光るシックな雰囲気、3年前に開設した2階は大きな窓から光が注ぎ、銀座中央通りがよく見える。1910(明治43)年の創業時には銀座7丁目にあった。
現社長の長谷川勝彦さん(57)は毎年ブラジルを訪れる。生産者から直接、農薬や化学肥料を使わない高品質の豆を買い付けるためだ。「私が買ってきた豆をお客さんに楽しんでもらう、パイロットショップのような喫茶店です」
創業者は、長谷川社長の祖父の元上司で、ブラジル移住事業を手がけ「移民の父」と呼ばれた水野龍(りょう)。日本でのブラジルコーヒー販路開拓を条件に、サンパウロ州政府から無償で豆を譲り受け、コーヒーを1杯5銭で提供。後に祖父が事業を受け継いだ。先代の父は、90歳になった今でも、毎日店の様子を見に来ている。
今の一番人気は、農薬や化学肥料不使用の「森のコーヒー」。いただいてみると、甘みと酸味の調和がとれた、まろやかな味わいが広がった。
(文・写真 笹木菜々子)
◆東京都中央区銀座8の9の16(TEL03・3572・6160)。午前8時半~午後9時半((日)(祝)は11時半~8時)。無休。銀座駅。