来年で創業から670年。室町時代に中国から来た林浄因が奈良で作って売った「饅頭(まんじゅう)」を起源とする。
京都に拠点を移し、天皇家や足利将軍家に献上。8代将軍義政から「日本第一番本饅頭所」の看板をもらった。江戸へは徳川家康の江戸開府とともに移転した。
塩瀬の「薯蕷(じょうよ)饅頭」はつややかで腰高。原料は小豆と大和芋が中心。そこに30年の年季がいるという職人の手技が加わる。皮に水はいっさい使わず、職人が大和芋の水分や粘り気などを感じ取り、米粉や砂糖とともに練り込んでいく。「材料を落とすな、割り守れ」。これが塩瀬の鉄則だ。
注文販売が伝統だった塩瀬も現在は9店舗をもち、ネット販売も手がける。34代目の川島英子さん(94)が1980年にデパート出店を決断したときは、職人たちの猛反対を受けたが「たくさんの人に塩瀬を知ってもらいたい」と押し切った。
時代を読み、合わせた商いをする。先代に教わった暖簾(のれん)をつなぐことの大切さを、英子さんはいつも心に刻んでいる。
(文・写真 白井由依子)
◆本店は東京都中央区明石町7の14(TEL03・6264・2550)。午前9時~午後7時。(日)(祝)休み。築地駅。他に都内5店、茨城・埼玉・千葉各1店。