四ツ谷駅から国道20号(新宿通り)を新宿方面へ進むと、坂本屋はある。
1897(明治30)年創業。午前6時ごろから、3代目の坂本純一さん(77)や職人ら3人で、縦42センチ、横56センチ、厚さ7センチの、座布団のような大きさのカステラ(8斤分)を10枚以上焼き上げる。材料は卵、小麦粉、砂糖、水あめ、みりんとシンプルだ。冷めてからまな板にのせ、竹定規で測り、0・5斤から3斤に切り分ける。
「卵の泡立ちがカステラ作りの要。泡立ちが甘いとふんわりせず、泡立ちすぎると焦げやすい」と純一さんは言う。膨張剤を使わず、ガス窯で約1時間かけ、ふっくらと焼き上がったカステラ。つややかな茶色い焼き色と、卵の自然な黄色が生きる断面のコントラストが目に鮮やかに映る。
「近くの上智大を卒業した作家の井上ひさしさんも、度々いらっしゃいました」と話すのは妻の晴子さん(75)。学生時代にはなかなか買えなかったと懐かしんでいたそうだ。昔も今も、四谷の名物として愛され続けている。
(文・写真 下島智子)
◆東京都新宿区四谷1の18(TEL03・3351・0195)。(月)(火)(木)(金)午前9時半~午後5時半、(土)(祝)は5時まで。(水)(日)が休み。四ツ谷駅。