墨田区太平で216年続く石川べっ甲製作所。7代目で、5人の職人の一人でもある石川浩太郎さん(40)は8年前、江東区亀戸の商店街にべっこうの商品販売店「江戸鼈甲(べっこう)屋」をオープンした。店内のショーケースには、あめ色の高級アクセサリーやメガネなどが並んでいる。江戸時代、吉原の花街文化とともに隆盛した「江戸べっこう」は、現在台東・墨田・江東区近辺に約20人の職人が残る。
原料はウミガメの一種、タイマイの甲羅。1992年のワシントン条約で輸入が禁じられてから、国内の在庫を大切に使ってきた。べっこうは厚さ約0・5ミリの膠質(にかわしつ)で、何枚も貼り合わせて板を作り、熱加工して成形する。「手作業でしか作れないオンリーワンの品です」。貼り合わせだからこそ、壊れたときはつなぎ合わせて修理できる一生ものだ。2015年には国の伝統的工芸品に指定された。
亀戸の販売店名からあえて石川の名を外したのは、「一番の目的は文化の継承ですから」と浩太郎さん。逆境をバネに未来を模索している。
(文・写真 星亜里紗)
◆東京都墨田区太平4の22の5。江戸鼈甲屋は、江東区亀戸2の36の10(TEL03・3636・3595)。午前10時~午後7時。(火)休み。亀戸駅。