観光客でにぎわう浅草の伝法院通りに、全国に10軒もないという本つげ櫛(ぐし)の専門店がある。
櫛が一般的に普及したのは明治の文明開化以降のこと。それまでは、髪結いや床山など、専門家の仕事道具だった。1717(享保2)年、現在の文京区湯島で創業し、個人の需要が増え始めた大正初期、今の場所に店を構えた。4代目の斎藤悠(ゆたか)さん(38)は、15年前に先代のおじの後を継いだ。共に店を切り盛りする妻の有都(ゆづ)さん(37)は幼なじみだ。
「よのや型」とよばれる丸みをつけた形が特徴。鹿児島産の本つげを半年間釜でいぶして水分を抜き、更に半年間空気にあてる。加工後、店の作業場では、トクサを貼り付けた「歯擦り棒」で櫛の歯にやすりをかけ、ツバキ油に4~7日間漬け込んで仕上げる。堅くて丈夫。なめらかな質感で、静電気が起きにくいという。
有都さんの提案で、店頭で実際に商品を試せるようにした。斎藤さんは「納得してから買いたい、という時代ですから。お客様との会話を大切にすることは、今も変わりません」。
(文・写真 秦れんな)
◆東京都台東区浅草1の37の10。(TEL03・3844・1755)。午前10時半~午後6時。(水)と12月31日休み。1月1日~3日は正午より営業。浅草駅。