江戸時代、魚河岸があった日本橋に、嘉永3(1850)年創業の折り詰め料理専門店「弁松総本店」がある。忙しい魚河岸の人たちが持ち帰れるように、料理を経木や竹の皮に包んだのが弁当屋としての始まりだという。3代目になり、「弁当屋の松次郎」から略して「弁松」と称した。
人気の「並六(なみろく)」は、六寸にやや満たない折り箱の大きさからその名がつく。今も経木の折を使い、「野菜の甘煮」「玉子焼」「めかじきの照焼(てりやき)」「豆きんとん」「つとぶ(生麩(なまふ))」など、昔ながらの定番がぎっしりと並ぶ。
調理は、江東区の工場で深夜1時くらいから始まる。約20人の社員の中に、8代目の樋口純一さん(47)も加わり、朝方までに折り詰め約1千個を作る。
江戸好みの甘辛い味付けは、長年変えていない「濃ゆい」味。親子代々の愛好者がいる一方、煮物ではなく「煮菓子」だという人や、「砂糖の量を間違えたのでは」という声もあるそうだが、「これがうちの味。変えたら弁松でなくなります」と樋口さんは語る。
(文・写真 清水真穂実)
◆東京都中央区日本橋室町1の10の7(TEL03・3279・2361)。午前9時半~午後3時((土)(日)(祝)は0時半まで)。無休(年始休み)。三越前駅。