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神田日勝記念美術館

神田日勝記念美術館

「不完全ではない」半身の馬

 後ろ脚がない。NHK朝ドラ「なつぞら」(2019年)で青年画家・山田天陽のモデルにもなった神田日勝(1937~70)の作品を収める神田日勝記念美術館。正面や受け付けの垂れ幕に大きくあしらわれ、来館者を迎えるシンボルマークは、馬の前半身のみだ。

 東京に生まれた日勝の一家は、戦禍を逃れ北海道に渡った。中学卒業後、十勝平野の鹿追町で農場を営む両親の後を継いだ。幼い頃から絵が好きだった日勝は、農作業の合間に農耕馬や収穫物、厳しい自然の中で生きる開拓農家の姿などを描いた。32歳で病死した時、アトリエに残されていたのが、マークのモチーフとなった描きかけの「馬(絶筆・未完)」だった。

 「断ち切られるように終わる本作は、若くして志半ばで亡くなった日勝の姿に重なる。未完成だが不完全ではない」と、学芸員の川岸真由子さん。収蔵品の目玉で、来館者の人気投票で1位になった作品は、礼拝堂をイメージした展示室の一番奥に「ご本尊様のように」展示されている。

 ◆神田日勝記念美術館 北海道河東郡鹿追町東町3の2(問い合わせは0156・66・1555)。午前10時~午後5時。原則月、祝翌日、年末年始休み。

(2021年6月22日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)