イラストレーター・平泉春奈さん(春奈先生)の描き下ろしイラストと一緒に、性のお悩みを解決するコーナー。第3回のテーマは「避妊と性感染症」です。
私たちはなぜ、「セックスをするときはコンドームを着けましょう」と習うのでしょうか。理由のひとつは、避妊。もうひとつは性感染症予防です。アンケートを募ると、切実な事情が明らかになりました。苦しみを抱えた声も届きました。
大切な自分、そしてパートナーの心と体を守るために、一緒に学び直してみませんか。(聞き手・田中沙織)
◇春奈先生のおはなし◇
今回はちょっと口調が強めになっちゃうかな。でもそのくらい、「避妊」と「性感染症」について考えるのは大切なことです。
「避妊」に対する意識は、インターネットが普及していなかった時代に比べると、社会全体の意識が高まった印象です。私が学生だったころは、先輩や年上の彼氏から言われるがまま、間違った性の知識が引き継がれていくような雰囲気がありました。「コンドーム着けなくても、外に出せば大丈夫だよ」と言われると、「そうなんだ!」みたいなね。怖い時代だったと思います。
しかしネットでたくさんの情報を得ることができるいまの時代でも、間違った情報を信じてしまう人がいるんです。正直、「よく調べようよ。スマホひとつで情報が手に入るんだよ!」と言いたくなるな。
◇アンケート結果を紹介◇
事前にアンケートも募集しました。みんなはこの結果、どう思う?
※5月上旬に平泉春奈さんのインスタグラム(@hiraizumiharuna0204)のストーリーズ機能を通して実施。10,238人から回答を得ました。
~避妊について~
◇春奈先生のおはなし◇
「いいえ」と答えた方の中には、パートナーとの間に子どもを望んでいる方もいます。しかし、そうではない人も多いんじゃないかな?
「子どもを望んでいるから」以外の理由で多かったものを、ジャンルごとにまとめてみました。みんなも一緒に考えてみてね。
~雰囲気をこわしたくないし、断り方がわからない~
避妊に協力的ではない相手をはっきり断る方法が、わかりません。「コンドームをしたくない」と言われると、雰囲気に流されて応えてしまいます。その場の空気もこわしたくない……。
◇春奈先生のおはなし◇
避妊具を着けてほしいという気持ちは、相手にお伺いを立てることではないからね! 「え? なんでコンドーム着けないの?」くらいに当然のことだと思ってほしい。
コンドームって、男性側が用意するイメージがあるかもしれません。しかし、女性側でも準備しておくと良いでしょう。そのくらい、「着けるのは当然」なんです。
そんなんじゃ可愛くない? おねだりして着けてもらう方が良いのでは?
そんなこと気にしないで! その場の流れや雰囲気を理由に協力しないような人は、そもそもあなたの体を気遣っていないのかもしれません。あなたへの真剣な思いや愛は、本当にあるのでしょうか。
性行為の先にあるものを、想像してみてください。「予期せぬ妊娠」に、いまのあなたはどう向き合いますか?
~拒否されて~
彼氏に「コンドームを着けるのは好きじゃない」と言われました。
彼氏に「低用量ピルを飲んでいるから大丈夫だろう」と言われました。
◇春奈先生のおはなし◇
「惚れた弱み」という言葉があります。
好きだから相手の意向に添ってあげたいという理由で、彼氏の非協力的な対応を受け入れてしまう。厳しいことを言うようですが、それは「相手だけの責任」なのかな?
「コンドームを着けるのが好きじゃない」
→「あなたの問題だよね。私はコンドームを着けないのは好きじゃない」
「低用量ピルを飲んでるから大丈夫でしょ」
→「完全に避妊できるわけじゃないし、性感染症の予防はできないよ」
こうやって自分の意思を伝えるためには、女性側が正しい知識を身につけておくことが必要です。知識があやふやだと、相手に流されてしまうこともある。強い意志と自信を持って、正しい知識を伝えることができるように頑張ってみて!
「好きだから相手に応えたい」と思う人。その「好き」は、何ですか?
嫌なことを言われたら、怒って良いんです。もしも、本当に彼氏が正しい知識を知らなかったとすれば、相手を責めるのではなく教えればいい。学校で学ぶ性教育には、残念だけれど足りない部分があるんです。パートナーと一緒に学ぶのも、素敵なことです。
「好き」は、責任です。
~体の事情で~
彼氏はコンドームを着けていると、勃起できなかったり、達することができないから。
パートナー、または私が……
コンドームをしていると、摩擦で痛い。
ゴムアレルギーで、コンドームを着けることができない。
◇春奈先生のおはなし◇
勃起障害のなかには、コンドームEDというものがあるそうです。自分にあったコンドームを選ぶ、装着自体に慣れる、パートナーにコンドームを着けてもらう、コンドーム・マス法など、自分たちで取り組める治療法も様々あるようです。生活習慣の見直しや治療薬の服用もあります。
コンドームの摩擦で痛みを感じる場合は、潤滑ゼリー付きのコンドームを使ってみるのもひとつ。ゴムの材質にも2種類あるようです。一般的なのは「天然ゴムラテックス」だそうですが、「ポリウレタン」は少し硬めの質感で痛みを感じる人もいるようです。
ゴムアレルギーの人も使えるポリウレタン製のコンドームものもあるそうなので、調べてみてください。
どんな理由であれ、セックスとコンドームは常にセットで考えてほしい。性感染症の予防になりますし、避妊目的で低用量ピルを服用している場合も、正しく服用できていないと効果は得られません。
それでも、どうしてもコンドームの装着が難しい人は、オーラルセックスでお互いの気持ちを満たすという選択肢もあります。私は「挿入すること」が唯一のセックス方法ではないと思います。
~その知識、大丈夫?~
パートナーまたは私が、「外に出せば大丈夫(膣外射精)」と思っていたから。
「安全日」だったから。
「生理中」だったから。
◇春奈先生のおはなし◇
★膣外射精は、避妊になりません。射精前の分泌液にも精子は含まれているので、妊娠する可能性があります。
★「安全日」はありません。排卵の時期などで「この日は安全日」と考えるようですが、排卵時期は厳密に決まっていません。あくまで、予定です。
★生理中も、妊娠の可能性はあります。免疫力も低下しているので、感染症のリスクも高まりますし、子宮内膜症を発症する恐れもあります。
◇春奈先生のおはなし◇
約8割がコンドームでの避妊でした。これは、日本特有の結果という見方もあるそうです。「男性主体の避妊方法(コンドーム)に頼ってしまっているのではないか?」という一面もうかがえます。1999年、日本で初めて避妊用の低用量ピルが承認されましたが、一部の国では1960年代にはすでに普及されていたそうです。
もしかすると、日本は低用量ピルに対して「恥ずかしいもの」というイメージが強いのかもしれません。自分の身を自分で守るためにも、低用量ピルや子宮内避妊器具をもっと気軽に選べるようになればと思っています。
しかし女性主体の避妊方法は、費用の負担だけではなく、体に負荷がかかってしまう場合もあります。体質が原因で服用できなかったり、器具を装着できなかったりする人もいます。薬の服用による副作用や血栓症のリスク、婦人科への通院、子宮内避妊器具の装着時の痛み……。大変な思いをしながらも自分で対策を講じている人がいるということも、もっと広まってほしいなと思っています。
そのためにも、男女ともにコンドームの正しい使い方を学んでおきましょう。
お悩みエピソード
100%の避妊方法がないなか、妊娠が怖くて性経験を踏めません。
◇春奈先生のおはなし◇
この方は、「性行為に興味はあるが、怖い」のかな?
本当に怖いのであれば、そもそも挿入にこだわる必要はないと思います。恐れを抱えたまま行為をしても、心からの気持ちよさはありません。パートナーを受け入れたいという気持ちもわかりますが、そんなに不安な思いをしてまですることではないと思っています。
2人で話し合って、前戯を十分に楽しんだり、いつかできた時のために楽しみを取っておくというのでも良いんじゃないかな。
世間の「当たり前」ではなく、好き同士だからこそ、お互いをわかり合える関係を目指してみてください。
<みんなに紹介>
今回、24歳の男性からあるDMをいただきました。
年上の彼女ができました。順調に交際も進み、セックスをしたのですが、性行為後にコンドームをはずすと中になにも入っていないことに気づきました。僕自身は交際経験が少なく、どうして良いのかわからずにとても焦りました。彼女は、「コンドームを着けたから大丈夫だよ」と言ってくれたのですが、僕は「望まない妊娠をさせてしまったらどうしよう」と不安です。万が一のとき、どのような心構えが必要ですか?
◇春奈先生のおはなし◇
一番大切なのは、逃げずに最後まで向き合うことです。この問題に関しては、人によって様々な考えがあるでしょう。そのうえで、お話しします。
万が一のときは、パートナーの精神面のフォローと、金銭面を考えるのが重要です。アフターピルの服用もありますが、女性側が「大丈夫」と言っている状態で無理強いするというのも違います。
まずは女性の考えを聞き、しっかり心に寄り添ってほしい。そして、可能な限り不安な様子を見せるのも避けた方がいいかもしれません。そういう姿を見た女性は、「万が一のとき、彼はどう思うんだろう」「別れを切り出されたりしないかな」と、不安になると思うから。
この相談を送ってきてくれた君は、きっと目を背けない人だと思います。
教えてくれて、ありがとう。
~性感染症ついて~
◇春奈先生のおはなし◇
性感染症に関しては、「今も昔も意識が低いのかな?」と感じます。ここ数年、梅毒のニュースをよく見聞きしました。そうやって不安をあおられると、はじめて意識が高まるのかもしれません。しかし、性感染症はないがしろにできない事態です。
性感染症予防も大切だけど、妊娠と比べて、「身近なことではない」「私は感染しない」と思っている人もいるのかな。しかし近年、性感染症への感染が増えています。
避妊と比べて、性感染症の予防はないがしろにされているのではないでしょうか。性感染症は「治療すれば大丈夫」というものではありません。妊娠出産に影響を及ぼしたり、一生向き合う場合もあります。
「セックスとコンドームは常にセットで考えてほしい」。コンドームの装着は、避妊だけではなく性感染症予防という目的もあります。結婚している人、子どもを望んでいない人も、感染症のリスクはじゅうぶんにあるということを理解しておく必要があります。
お悩みエピソード
「性病は身近なものではない」と思い、出会い系アプリを使って気軽にセックスをしてしまいました。その結果、性感染症に感染。恐怖と後悔でいっぱいでした。
◇春奈先生のおはなし◇
素性のわからない相手というのは、その後の関係も希薄になります。自己責任なうえ、責める先もない。
この方がこれから先の未来において、もしまた同じような局面に立たされたとしても、今回の後悔をいかして踏みとどまってほしいと願っています。
お悩みエピソード
関係を持っていた人との性行為が原因で、性器ヘルペスに感染しました。生涯、完治しないそうです。今後誰かと付き合うことがあっても、相手に感染させないために交際前に自分が性器ヘルペスであることを伝える必要があると考えると、もう、恋愛できる気がしません。
◇春奈先生のおはなし◇
生涯完治しない。これは、本当に辛いですね。
そして、性感染症はオーラルセックスでも感染しますし、コンドームを装着していても感染リスクは完全になくなったわけではありません。前戯でも注意する必要があるんです。
私自身も今回みんなからのお悩みを受けて、性感染症が想像以上に身近なものだということを知りました。体だけではなく、精神的にもずっと背負う人がいる。
そして、性感染症に対する社会のイメージも、本人の苦しみを増長させているかもしれません。「自業自得」「かわいそう」という一部の風潮が、人知れず苦しみ続ける人をうみだしてしまっているのかもしれません。
お悩みエピソード
パートナーが性感染症に感染していないか、不安になってしまいます。上手な聞き方はありますか?
◇春奈先生のおはなし◇
相手だけに求めるのではなく、「お互いのために、一緒に検査してみない?」と2人で検査を受けてみるのはどうかな。
相手1人に受けさせるのは、ただ疑っている気持ちしか伝わらないと思うんです。少し気が重いことも、2人一緒ならば安心して取り組んでくれるかもしれません。いまは、自宅で使える検査キットも売っているそうですよ。
コンドームも、相手任せに「用意してくれるもの」ではなく、一緒に買いに行くのも素敵だと思います。そうすることで自分事にもなり、相手の意識も高まるのではないでしょうか。
※四捨五入の関係で合計99%になりました。
◇春奈先生のおはなし◇
「特定の相手だったら大丈夫」というわけではありませんが、万が一感染してしまった場合、一緒に必要な対策を取ることができます。
しかし、相手が不特定だったり不明だったりすると、原因がわからずにモヤモヤして泣き寝入りになることもある。
相手は誰であれ、感染のリスクはあるんです。
<春奈先生から、みんなへ>
― 幸せに満ちた時間を作るためにも、正しい性の知識を身につけて ―
「避妊」について発言すると、様々な声が届きます。そのひとつには、「私は子どもを望んで頑張っているのに、こういう話を聞くのは耐えられません」。
みんなには、性行為の先にあるものを考えてみてほしい。
私は官能作品を描いています。登場人物たちの関係性や愛の深さを本気で描こうと思ったら、コンドームの描写が必要だと思っています。逆に、「愛のない場面」には意図的に描かないときもある。
これはもしかすると、物語の世界だけにとどまらないのではないでしょうか。
性教育の中で「避妊と性感染症」は、ひとつの要だといえます。多くの物事は、「失敗から学べ」と言われますが、こればかりは失敗せずに学ぶ必要がある。ひとつ間違えると、心と体に傷を負う場合もあるんです。雰囲気や一時の快楽で、軽んじてはいけない。しかし不安や恐怖が先走って、セックスそのものを楽しくないものにしてほしくもない。
望まない辛い結末で、好きになった人を恨んでほしくないと思っています。だからこそ、あなた自身が正しい知識を学んで、それをパートナーとシェアして、信頼と安心のもとで幸せな時間をすごしてほしいと願っています。
平泉春奈
イラストレーター
愛と美と官能をテーマに、カップルイラストや短編小説を創作。3冊目の著書「私たちは愛なんてものに」(KADOKAWA)を発売。
次回は7月6日に公開予定です。