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第6回 AVはファンタジー、目の前の相手と向き合って

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 イラストレーター・平泉春奈さん(春奈先生)の描き下ろしイラストと一緒に、性のお悩みを解決するコーナー。第6回のテーマは、第5回に引き続き「AV(アダルトビデオ)」です。
 ゲストは女性向けと男性向け、両方のAVに出演した男優の一徹さん(45)です。「AVで描かれる世界と、リアルなセックスは別物」と語る一徹さん。AVの受け止め方や、目の前のパートナーとの向き合い方を、一緒に考えてみませんか?
 アンケート結果も紹介します。6月下旬に平泉春奈さんのインスタグラム(@hiraizumiharuna0204)のストーリーズ機能を通して実施。6,152人から回答を得ました。(聞き手・田中沙織)

◇念願の対談◇

 2009年に女性向けAVを制作する会社・シルクラボが誕生してからずっと、多くの女性の心をつかみ続けてきたAV俳優・一徹さん。一徹さんを知ったきっかけは、私のもとに届いたメッセージでした。「絵に登場する男性の雰囲気が、一徹さんをほうふつとさせます」。作品を見てみると、女性を見つめるまなざしや頰や耳を優しくなでる手、ささやかれる言葉は、女性にとって「理想的な王子様」そのもの。「ご本人はいったいどんな方だろう」と興味がわき、今回ようやく対談が叶いました!

 8月上旬、対談場所に現れた一徹さんは「とにかく爽やかで自然体」。すぐに緊張を解いてくれました。しかし対談がはじまると、隠すことなく性の話をしてくれる。とはいえ、「この話って大丈夫ですか?」と、私と女性記者への気遣いも忘れない。
 これが、女性向けAVを世に広めた男、一徹の魅力なのだと思いました。

 

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一徹さん
1978年生まれ、埼玉県出身。
AV男優。大学卒業後に公認会計士をめざしていたところ、「AV男優募集」の広告に引かれて20代で男優デビュー。著書に「セックスのほんとう」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

 

――一徹さんと春奈先生

平泉: お会いするのは初めてですが、実は一徹さんのファンの方が、すでに私たちのご縁をつなげてくれていたんです。数年前に一徹さんのファンの方から、「イラストに登場する男性がAV男優の一徹さんに似ている」という声が届きました。実はそれまで、AV男優の方が「セクシー俳優」として注目されているということも知らなかったんです。

一徹: 僕も、ファンの方に平泉さんのことを教えていただきました。2019年に出版した「セックスのほんとう」という書籍についても、ブログで書評してくれましたよね。またこうやって繫がれて、嬉しいです。

平泉: もともと、公認会計士を目指されていたとか。

一徹: 大学在学中から勉強していたんですが、試験に落ちまして。ほかに就職活動をしていたわけではなく、でもお金も稼がないといけない。そんなとき、ネットでAV男優を募集する広告を見つけたんです。この業界に飛び込んだきっかけは、興味と下心でした。
 当時、レンタルショップの18禁ののれんをくぐってAVを見ていた時代から、インターネットで見られるようになる転換期でした。しかし、まだまだ女性がアダルトコンテンツに触れるにはハードルが高かったと思います。

 

――女性向け作品が登場、出演をきっかけに一気に注目されるように

平泉: 2009年、女性向け作品を作るシルクラボが登場します。シルクラボの専属男優としても活躍されました。「男性向け」のイメージの強いAVが女性もターゲットにしたことで、どのような変化がありましたか。

一徹: 男優はそれまで脇役だったのですが、主役のひとりになりました。
 男性向けでは、作品を見る男性が女優さんと疑似体験できているかのような気持ちになれるよう、男優は黒衣に徹するように求められます。しかし女性向けは、2人の世界を大切にする。女性向け作品ができたことで、男優をフューチャーした作品を見たいという女性がいることもわかりました。

 次々と各メーカーが女性向け作品に挑戦し始めたのですが、10年以上続いているのはシルクラボだけではないでしょうか。

平泉: 他にもあったんですね。女性向け作品で大事なポイントは何ですか。

一徹: やはり、脚本が大事だと感じます。恋愛ドラマの延長線上のようなコンセプトです。個人的な感覚ですが、女性向けに打ち出した作品を作ろうとしていても、結局は男性向け寄りになってしまうメーカーもあったような気がします。「女性も男性と同じように、本当はもっと激しいのが好きなんでしょ?」といった印象でしょうか。しかしシルクラボは、徹底して女性目線で描いている気がします。そこが、他との違いかもしれません。

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――男性向けと女性向けの違い

一徹: 違いをざっくり説明するとすれば、男性向けはムラムラ、女性向けはキュンキュン。男性向けは、見ている人が本能的に興奮できるように描いています。行為のシーンが重要で、そこまでのシーンは早送りされることもありますからね。女性向けは、それとは真逆です。行為に至るまでのプロセスこそが大切。

平泉: 出演者の演じ方も変わってくるんですか。

一徹: 男性向けの主役は女優さん。キスシーンですら、男優は可能な限りカメラに映らないように心がけますし、女優さんの体がきれいによく見えるようにするので、不自然な体勢になることが多いです。

 女性向けの大きな特徴は、女性に触れる手の位置。耳や頭に添えるというのは、男性向けではほとんど見られないのではないでしょうか。清潔感のある身だしなみや優しい言葉遣いなど、女性に不快感を抱かせないように気をつけています。僕としては、女性向けの方が、違和感なくセックスができます。たまにロマンチックなせりふがあるので、ちょっと照れくさいですが(笑)

 

――AVで描かれる世界

平泉: アンケートでは、AVに対するイメージも聞いてみました。

<身体的>
・体当たりで大変そう。痛そう。過激で怖い。

<気持ち>
・あこがれのシチュエーション。
・AVを見ている=変態のイメージがある。
・女性が見るのはタブーな印象。「男性が見るもの」というイメージが強い。

<パートナーとの理解の差>
・AVを見ていることも言いにくいし、パートナーが見ていることを知っていても、その話題に触れにくい。
・パートナーが自分以外の女性に興奮すると思うと嫌だ。

<男女の理解の差>
・男女ともに、ときには必要なもの。
・男性の性欲を満たすもの。
・女性向けと男性向け、印象が違いすぎて不安になる。
・女性向けには女性の理想、男性向けには男性の夢がつまっている。
・男性が喜ぶシチュエーションが多く、幻想を抱きそう。

<その他>
・夢と希望。
・間違った性教育に繫がりそうで不安。
・教科書ではないが、あくまで参考書として見る。

 

一徹: 「AVはインスタントに欲求を叶えるもの」ということを理解しておく必要があるかもしれません。
 男優や女優の皆さんは「AVをお手本にしてはいけない」と、20年以上前からずっと言い続けてきました。僕も、先輩たちと同じことを言っているだけなんです。しかし「上手にセックスできるようになりたい」と、男性も女性も、どうしてもAVをまねしようとしてしまう。お互いに気持ち良くないのに、勝手にやり方をまねしてしまうのは避けてほしいです。

平泉: 業界人による「AVはファンタジー」という発信が増えているのか、社会の意識も変わってきているのかもしれないですね。

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一徹: 僕の体感としては、もっと多くの人がまねしているんじゃないかなと思っていました。今でも、「AVをまねされてつらい」という悩みが届くことはあります。

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※四捨五入の関係で合計101%になりました。

 

平泉: お悩みDMも届きました。

お悩みエピソード
相手から首締めプレイをされたとき、とにかく怖かったです。顔射(相手女性の顔に精液をかけること)もされて、嫌な気持ちになりました。彼に喜んでほしくて、せっかくメイクしていたのに。

一徹: つらいですね。

平泉: 嫌なプレイを未然に防ぐには、どうするとよいでしょうか。

一徹: 大前提として、セックスは2人で楽しむものです。「怖い」「嫌だ」ということを相手に伝える勇気を持てるように頑張ってほしい。最初は言えなくても、2回目からは伝えてみる。そのまま黙っておくのは危険です。

平泉: これまでのコラムでもそうだったのですが、断ったり嫌がったりすると相手に嫌われる、なえさせてしまうと考える女性も多いです。相手への依存なのか、自己肯定感の低さなのか、「体を求めてもらえる=幸せ」と思い込む人もいます。

一徹: そういう方はきっと、優しい人でもあるんでしょうね。悲しいことに、男性も良かれと思ってやってしまう人がいます。過去に付き合っていた女性が同様のプレイが好きだったり、リクエストされた経験があったり。全ての女性が嫌ではないんだと、勘違いしてしまう。しかし、同意を取らずにまねしてしまうのは良くありません。
 理想は、お互いの性的嗜好を事前にすりあわせることです。プレイするときも、その都度確認を取るのがおすすめです。

平泉: 「顔射されると顔がかぶれるのは嫌だ」とか?

一徹: それいいですね! 特に気をつけていただきたいのは、首締めプレイです。感じる恐怖もトラウマも大きい。間違えると死に至るので、まねされがちなプレイのなかで一番危険な気がします。嫌という気持ち、怖いという気持ちをはっきり伝えてくださいね。
 人によっては、本当に苦しんでいる顔を見て喜ぶ人もいますが、その場合は交際自体を検討し直す必要があります。

 断るときは、伝え方次第で相手の受け取り方も変わってきます。僕自身も、女性に気持ち良くなってほしくて、顔を真っ赤にしながら手を使った前戯を頑張ったことがあるのですが、「全然気持ち良くないから大丈夫だよ。頑張ってるね」と言われたんです。「あなたを傷つけたくて言っているわけではないんだよ」ということが伝わってきて、全く傷つくことなく受け止めることができました。

平泉: 体のつらさや痛みは、男女でどうしても理解しがたい部分がありますからね。

一徹: AVは、演出で魅せる場合があります。電気マッサージ器などのプレジャーグッズを使う場合も、音響的な効果を添えるために「強」にしますが、僕は、女優さんの体の負担を減らすために当てている振りをすることがあります。スパンキングでは、カメラに映らないときは自分のお尻を叩いていることもあります。作品が始まる前に、「この映像はフィクションです」「絶対にまねしないでください」という注意書きも流れるんですよ。

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――あなたの“好き”を見つける

一徹: 嫌なことははっきりしていても、好きなことがわからない女性もいます。男性と比べて、性的な話題に抵抗を感じる女性が多いからなのかもしれませんが、自分の好きなプレイを知るのもいいですね。例えば、平泉さんのイラストを一緒に見ながら「こういうシチュエーションに憧れてるんだ!」って言ってみるのも素敵な関係。そうやって、相手と一緒に楽しむんです。

 

――女性と、性

平泉: アダルトな要素がある漫画を読んだり、映画を見たり、ときめくポイントを自分が理解しておくことは大切ですよね。女性の性に対する意識は、年々オープンになってきている気もするのですが。

一徹: オープンになっている一方、嫌悪感を抱く人もいます。それだけ、女性のなかには、性にまつわる嫌な思いや被害を受けてきた人が多いということだと思うんです。オープンな価値観の方は、自分と異なる考えの人がいるということを理解しておく必要もあります。性の話題に抵抗が少ない女性を狙って、卑猥なことを言ってくる男性もいます。そういう被害もなくなってほしいです。

 

――セックスはリアル

平泉: 一徹さんは、いわゆる「美しい女性」を間近で見てこられたと思うのですが、一般的な女性を見たとき、比較して幻滅することはありますか? ルッキズムの視点で考えると、AV女優の皆さんは可愛くてきれいな方が多い。私のもとには、顔や体形に自信がないという声が多く届くんです。

一徹: まったく幻滅しません! たしかに、女優の皆さんは自身のビジュアルを磨いている方が多いですが、AVはファンタジーの世界です。いち男性として、見た目が整っているとかよりも、自分だけに見せてくれたリアルな反応の方が嬉しいんですよ。

 新人の頃、60代や70代の女優の方たちと一緒にお仕事をしたことがありますが、見た目は全然気にしませんでした。出演料が交通費でなくなってしまうほどの距離から撮影に通われていた方もいたのですが、「それでも良い」と言われていたんです。「セックスが楽しいんだ」って。
 僕とのセックスで心から反応してくれて、喜んでくれて、楽しんでくれているのが嬉しかった。

平泉: 「きれいだから良い」というわけではない。セフレだと、相手に理想のビジュアルも求める人もいるかもしれませんが、本来は好きな人とするから素敵な時間になるんですよね。

一徹: セックス本来の喜びと、見た目を求めてしまうことのバランスは難しい。しかしそれを受け入れるためには、まずは経験を積んで、自分の失敗を受け入れることから始めてみるといいかもしれませんね。

 今は、リアルな恋愛をせずともゲームで恋愛を楽しめる時代です。僕が10代20代のころは、恋愛至上主義の時代。恋愛していない人に対する風当たりも強く「恋愛をしないと」というプレッシャーはつらかったですが、男女のことや、恋愛を知ることはできました。2次元や2.5次元の世界の楽しみと、現実を、上手に使いこなせるようになってほしいです。

<一徹さんに質問!>

平泉: 実は今回、保護者の方から相談が届きました。

10代後半の息子に、(性教育の一環として)一徹さんの書籍「セックスのほんとう」を渡したいと思っているのですが、渡すタイミングがわかりません。

一徹: 彼女ができた記念日に渡すのもいいと思うのですが、これまでどのように性教育を行ってきたのかも重要になってくるのではないでしょうか。性の話をいっさいしてこなかった場合、突然のことに、息子さんも戸惑ってしまうかもしれません。
 と言ってみたものの、親子間での性の話って難しいですよね。

平泉: 私は、娘が小学生になった頃には性教育を始めていました。ただ、女同士だからこそ伝えやすいのかも。もし息子がいたとしたら、どうやって伝えたかな。

一徹: 家庭で性教育、すばらしいですね! 僕は、両親とそういった会話をせずに育ちました。許容できる範囲ではありますが、若い頃はそれなりに失敗もしました。しかし、自分で調べながら勉強していきました。普段のコミュニケーションや、両親のどちらが伝えるのかも、見極められるといいですよね。

平泉: まずは子どもの気持ちや様子を観察してみる。良い結果に繫がるといいですね。

一徹: この方のような姿勢って、素敵だと思います!

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――AV男優として、みんなに届けたい想い

一徹: セックスでは、自分の嫌なことは、勇気をもって伝えられるように頑張ってみてください。お互いが楽しめる関係を、一緒に築いていってくださいね。
 AVは、ファンタジーです。自分の性的嗜好を、リアルとファンタジーを上手に使い分けて楽しんでほしいと願っています。10代20代の皆さんは、きちんと知識もあって、本当に優秀!

 むしろ僕たち世代やそれ以上の世代の方が、意識を変える必要があるかもしれません。女性も主体的に性と向き合い、楽しまれている時代です。「性的なことへの関心は隠すべき」「おしとやかであるべき」。セクハラが黙認されていた時代があるように、女性に対する古い価値観やイメージは、女性の負担や我慢のうえに成り立っていた一面もある。

 「AVをまねしたらだめ」ということを心の片隅において、自分らしく楽しんでくださいね。

 

<対談を終えて>

ー 真の愛情と、優しさを込めて ー

 時間が経つのがあっという間だった、一徹さんとの対談。知らなかった世界の話ということもあって、ひたすら興味深いお話しばかりでした。
 AV男優歴20年以上、その間、男性向けと女性向けの両方に出演されてきました。

 印象的だったのは、相手と体を密着させて、キスシーンも多い女性向け作品の方が体もしっかり反応するし、違和感なくセックスできるという話。相手に恋をして、身体を重ねているのだと感じて、胸が熱くなりました! その想いが届いているのか、見ている人は一徹さんが醸し出すエロスだけではなくて、心までつかまれるのでしょう。

 撮影中の女優さんへの気遣いも、一徹さん自身が女性を大事にされているからこそできること。その結果、ここまでの人気俳優になられたのだと納得してしまいました。

 対談後、改めて、自分がこの先描いていきたい男性像を考えました。
 ドS系、ヤンデレ系、わんこ系など、いろんな男性を描いていくなかで、なにより大切にしなければならないもの。それは、彼らがもつ芯の部分。愛情深さと、優しさでした。

 


 

平泉春奈

 平泉春奈

 イラストレーター
 愛と美と官能をテーマに、カップルイラストや短編小説を創作。3冊目の著書「私たちは愛なんてものに」(KADOKAWA)を発売。

 


 

次回は10月5日に公開予定です。

(2024年9月7日。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。)