イラストレーター・平泉春奈さん(春奈先生)の描き下ろしイラストと一緒に、性のお悩みを解決するコーナー。第7回のテーマは「生理と、生理中の性行為」です。
女性が一定の年齢になると始まる、生理。つらさや悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。生理中の性欲や、周囲との理解の壁など、アンケートで届いた声も紹介。春奈先生が、みんなのリアルな生理事情に答えます。(聞き手・田中沙織)
◇春奈先生のおはなし◇
実は私、生理が重いんです! 苦労も多かったな。ということで今回は、私自身の話も交えながら答えていきます。
生理と向き合うためには、「体質である」と受け止めるところが大事かもしれません。自分の体を恨んで、「なんで私ばっかり!」「症状や悩みが少ない人はうらやましい!」と思ってしまうことってありますよね。しかし生理は、本当に人それぞれ。まずは受け止めて、我慢できるところとできないところを見極める必要があります。そして、きちんと対処法を考える。人と比べてもしょうがないんです。とはいえ、つらい気持ちは放っておいてはいけない。「じゃあどうするのか」を、一緒に考えていきましょうね。
生理中の性欲は、本人だけではなくて、パートナーからの誘いに悩む人も多いでしょう。しかし、生理中のセックスはリスクしかありません。セックス後に実際に起きた体の不調も紹介するので、しっかり学んでください!
~生理について~
◇アンケート結果を紹介◇
事前にアンケートも募集しました。みんなはこの結果、どう思う?
※9月上旬に平泉春奈さんのインスタグラム(@hiraizumiharuna0204)のストーリーズ機能を通して実施。14,099人から回答を得ました。
【お悩みエピソード】
生理前になるとPMSで涙が止まらなくなり、周囲の人間関係を穏便に保つ自信がなくなります。
月経前不快気分障害(PMDD)です。仕事中に涙があふれだし、腕をひっかくなどの自傷行為をしてしまいます
◇春奈先生のおはなし◇
PMSは、月経前にあらわれる体の不調、精神的な不安などの症状です。耐えられないほど涙も出て周囲に敏感になるのは、つらいですね。何かしら対処方法を見つける必要があります。
PMSの症状を改善するために、低用量ピルを服用するパターンがあります。私は生理中の経血量が多くつらかったので、数年前から低用量ピルを飲んでいますが、精神的な不安はあまり自覚したことがありません。しかし夫は、低用量ピルを飲み始める前の私のことを「生理前はけっこうイライラしてたよ」と。無意識に、PMSに近い症状が出ていたのかも。
PMDDは、一時的なうつ状態です。婦人科ではなく、心療内科を勧められることもあるようです。
私のように経血の量が多く悩んでいる人もいるかもしれません。低用量ピルを服用し始める前は、まるでレバーのような経血がドバッと出ていてつらかったな。生理独特の臭いも気にしちゃって、かなりのトラウマかも。服用後は、量がだいぶ減りました。
どんな症状も、自分ひとりで抱え込むものではありません。病院できちんと診てもらうことが大切です。
職業柄、なかなかトイレに行く時間がありません。ナプキンをこまめに換えることができず、肌がかぶれてしまいます。
◇春奈先生のおはなし◇
このお悩みをきっかけに、ナプキン以外の生理グッズを調べてみました。もちろん、こまめに換えられるように工夫する必要はありますが、一度他の方法を見てみるのもいかがでしょうか。
膣内で経血を受け止める「月経カップ」というものがあるそうです。実は私、今回初めて知ったのですが、アンケートでは「月経カップが便利!」という声も届きました。ナプキン以外だと、タンポンしか知らなかったな。月経カップでは、ナプキンで生じてしまうかぶれも予防できるそうですよ。
※四捨五入の関係で合計99%になりました。
―低用量ピルを服用することへの迷い―
学生です。副作用や費用面を考えると、服用するかどうか迷っています。
結婚や妊娠出産への影響を考えると、服用をためらってしまいます。
◇春奈先生のおはなし◇
副作用は人それぞれ。あくまで個人的な感想ですが、初めの1、2日くらいは気持ち悪くなったけど、ほとんど副作用はありませんでした。血栓症のリスクは、こまめに水を飲んで対策しています! 病院では定期的な血液検査があるので、異常が起きる前に止めてもらえるので、私は安心して服用できています。
費用は、生理が原因で低用量ピルを服用する場合は保険が適用されます。市販の鎮痛剤やナプキンをたくさん買っている費用と、病院で処方される場合の費用を比較してみてみるといいですね。
低用量ピルは、将来妊娠するための機能をなくすわけではありません。ホルモン量を調整して排卵を抑制することで、つらさの緩和につながります。いつか妊娠出産を考えたときは、その旨を病院に伝えて服用を止めることができます。
子宮内膜症の治療に使用されるジェノゲストを服用している声も届きました。副作用や効果など、病院でしっかり説明を受けるようにしてくださいね。
―婦人科受診に対するハードル―
「生理痛がひどい」ってどの程度? 受診していい基準がわかりません。
高校生です。PMSがひどいのですが、婦人科を受診する勇気がありません。
◇春奈先生のおはなし◇
「つらい」と思ったら、もう受診していいんです。自分の体の不調に気付き、改善できるのは自分です。他の人の判断を仰ぐ必要はありません。
例えば、「生理がくると学校や仕事に行きたくなくなる、行けなくなる」でも、じゅうぶんに受診していいレベル。一回受診するだけでも、気持ちが軽くなるかもしれません。
アンケートでは、婦人科に通ったことのある人や、元看護師だという人からメッセージも届きました。
~病気に気づけた~
24歳会社員です。学生時代に激しい運動をしていたことや、社会人生活でのストレスで、生理が3、4カ月に1回しかこなくなりました。「産科/婦人科=妊娠」という思い込みや、恥ずかしさ、抵抗感があり放置していました。しかし友人がPMSの治療のために低用量ピルを処方してもらっているのを知り、私も行くことに。卵巣の病気だということがわかりました。生理と上手に向き合うためにも、病院に通うことは恥ずかしいことではありません。
~将来のために~
元婦人科の看護師です。もっと気軽に婦人科を受診してほしいです。特に学生の方は、行きにくさを感じると思います。しかし今のつらい気持ちを軽減するためにも、将来パートナーができたときのためにも、一度行ってみるのをおすすめします。
◇春奈先生のおはなし◇
未成年の方や中高生の皆さんは、自分が受診しやすい病院を探してみるのはどうでしょうか。婦人科では、内診台に乗ることがあります。もしも「怖い」「乗りたくない」という思いがあれば、病院に電話で伝えてみるのもひとつ。先生との相性もあります。あなたに寄り添った診察をしてもらえる病院を選んでくださいね。
保護者の人に相談することに対して、抵抗を感じている子も多いかもしれません。「誤解されたり、理解されなかったりしたらどうしよう」って。しかしこの相談者さんは、「PMSがひどいから婦人科で低用量ピルを処方してもらいたい」と、つらさを改善するための仕組みをしっかり理解しています。本当にすごいこと! 勇気を出して、きちんと伝えられるといいですね。
いち母親の立場としても、娘からは気軽に生理の相談をしてほしい。しかし、それが難しい関係性もわかります。たとえ母と娘であっても、価値観が違うことはある。付き添いがなくても、保険証や受診費用があれば診てもらえるそうですよ。
―周囲の理解とどう向き合うか―
①異性の家族、子ども
【お悩みエピソード】
父や男兄妹に話すのは恥ずかしい。
◇春奈先生のおはなし◇
「気恥ずかしさ」自体は、悪いことではありません。信頼できる大人であれば、相談する相手は誰でも良い。中高生のみんなにとっては、保健室の先生もそのひとりかな。
私には娘がふたりいますが、夫がその場にいたとしても、生理やナプキンの話をします。夫は会話に入ることはしませんが、私も娘も、別に隠す必要もない。娘も夫も気まずさがあるかもしれないので、無理にみんなで共有することでもないけれど、いざというときのために夫にも情報は知っておいてもらう。そのくらいの距離感が、私にとっての理想です。
未就学児の娘が2人います。生理で一緒にお風呂に入れないとき、どう説明すると良いでしょうか。
◇春奈先生のおはなし◇
未就学児は、まだまだ理解が難しいですよね。お母さんは頑張りすぎず、「体調良くないから先に出るね」とかで、ごまかしていいんじゃないでしょうか。
幼い頃から性教育を始めるのは大切です。しかし、本人が物事を理解できないまま、突然「生理っていうのは血が出る」ということを伝えると、混乱してしまう子もいます。まずは「体のデリケートな部分は人に見せない、触らせない、触らない」から始めましょう。
私も、長女と次女では性教育の進め方も伝え方も違います。本人の様子を観察しながら、その子に合わせることが大切です。
②男性
彼氏は生理やPMSに関する知識がほとんどなく、教えるタイミングがわからず、相談したり頼ったりするこができません。
◇春奈先生のおはなし◇
自分の症状を伝えることも、大切なコミュニケーションのひとつ。彼女のことを大事に思っているならば、喜んで聴いてくれるはずです! 「どうせ分からないから」と決めつけずに、一緒に学ぶ気持ちで伝えてみてください。
生理管理アプリを彼氏と共有しているという話も聞いたことがあります。PMSによる症状も事前に伝えておくことで、お互いの安心につながりますよね。
性別問わずお互いの体についてしっかり学べるように、性教育が発展していくことも願っています。
「低用量ピル飲んでるなら、コンドーム着けなくていい?」と言われたり、「自由奔放にセックスしたいから服用している」と勘違いされたことがあります。
◇春奈先生のおはなし◇
モヤッとしますよね。あなたは生理がつらくて服用しているのに、間違った知識で勘違いされてしまう。正直、こういう人はスルーしていいと思うの。本人がきちんと理解できている方が大切です。
パートナーには正しい知識を身につけてもらえるように努力してみましょうね。過去のコラムでも伝えましたが、セックスでコンドームは必須です。避妊以外に、性病を防ぐ目的があるからです。
③職場
会社に生理休暇の制度はあるのですが、認知度も低いです。男性上司というのもあり伝えにくく、活用できていません。
◇春奈先生のおはなし◇
まずは、「生理休暇」を整えているというのは、福利厚生の義務をしっかり意識している会社だと思っていいのではないででしょうか。当然の権利なので、堂々と活用するべきです。
しかし、男性相手だと伝えにくく感じるのもわかります。女性の味方を見つけたり、上司に渡り合える立場にいる女性に相談してみたりするのはどうでしょうか。
「前例を作ることで、後に続く女性も楽になる!」という気概もかっこいい! 他の人を救いながらも、自分自身の明るい未来にもつながっていきます。
<ちょっと一息>
田中: 生理前や生理中のつらさを緩和する、春奈先生おすすめの方法ってありますか?
平泉: そうだな。私は低用量ピルを服用しているけど、生理中の片頭痛がつらいんだよね。頭痛薬でも治まらないときは、ひたすら寝る! 「生理ぐらいで仕事しないなんて」という優等生的考えを捨てて、自分の体を甘やかすことに全集中するの。夫や娘たちにも、「今日は無理です。家のことは頼みます」って(笑)
田中: 「優等生的考え」、盲点でした。体をいたわるのも大事な仕事ですよね。
平泉: 「家族に申し訳ない」って思う気持ちは自分を苦しめるから、当然の権利としてしっかりと休む。その分、感謝の気持ちを伝えて、元気になったら恩返しをするよ! いつもどうしてる?
田中: PMSの治療中なのですが、ストレスや生活習慣でうまくいかないこともあります。ちょっとしたことがいつもの何十倍にも悲観的に感じて、家でひとり、思う存分泣いて発散します(笑) 気持ちを落ち着かせるにも、可能な限りひとりになれる場所や時間を作るようにしています。
平泉: 「無理して頑張ってでも自分を保たなきゃ」っていう考えは捨てていいよね。生理は、体も心も両方つらい。意識して、精神的な苦痛を少しでも和らげることが大切。我慢し合う関係よりも、助け合える社会になると素敵だよね。自分にあった緩和方法で向き合っていきたいね。
~生理中の性行為について~
◇春奈先生のおはなし◇
みんなはこの結果、どう感じる?
半数近くが自ら望んで生理中に性行為をしています。たしかに、ドロッとしたものも出るし、性欲がムラムラ起きてくる人もいるかもしれません。その気持ちもわかります。しかし、他で発散できる方法を見つけられるといいですね。好きなものを食べたり、カラオケで歌いまくったり、お笑い見て大笑いしたりね!
性欲と、生理中の性行為によるリスクをてんびんにかけてみてほしい。
アンケートでは、性行為後の体調に影響が出た人から、そのときの様子を教えてもらいました。
【症状の例】
・膀胱炎、細菌性膣炎、子宮内膜症、膣カンジタ、淋病、骨盤腹膜炎で入院、子宮筋腫
・生理が長引く、血の量が増える、不正出血
・腰痛、子宮の痛み、下腹部の痛み
・生理痛の悪化、その後の生理不順、生理周期が延びた
・膣の入り口が痛む、座るときに包丁で刺されるような痛み
・吐き気、嘔吐、下痢、だるさや微熱
・生理の終わりかけで性行為をして出血し貧血になった
性欲に負けないためにも、リスクを理解しておきましょう。そのうえで、自分の体と向き合うようにしてくださいね。
―パートナーとの関係―
【お悩みエピソード】
彼氏とお泊まりの予定があるときに生理が始まってしまったとき、どのタイミングでどのように伝えるといいでしょうか? 彼氏に申し訳なく思います。
◇春奈先生のおはなし◇
全く、申し訳ないなんて思わなくていい! 本来楽しめるはずの時間だったのに、生理の不快感を抱えながらお泊まりするあなたの方が、つらいんじゃないかな?
会話のなかで、「生理になっちゃった」ってさらっと言って大丈夫。日頃から生理について話せる関係が理想的です。セックスができないことや、お風呂に一緒に入れないことなど、彼氏側も知識が増えていきますよね。
気持ちに余裕があれば、「次のお泊まりでね!」って明るく添えてみるのもお互いの楽しみが増えるかも!
生理中に彼氏から求められたときの断り方がわかりません。断ると、不機嫌になってしまいます。
◇春奈先生のおはなし◇
「そんな人と付き合って大丈夫?」って言いたくなるな。彼は、生理中のセックスのリスクを知らないから、自己中に不機嫌になるのではないでしょうか。病気になる可能性を、バシッと伝えてほしい。
生理中は膣や子宮内部が普段よりもデリケートになっていて、セックスをすると細菌による感染症のリスクも高まるそうです。例で紹介したような病気や、後遺症に繫がることもあります。
堂々と説明できるためにも、よく知っておいてね。リスクを伝えてもなお「エッチしたい」「そんなの大丈夫だよ」とか言ってくる相手は、交際自体を考える必要があるのではないでしょうか。
生理中は挿入はしないですが、彼に手や口でしてあげます。「私の生理期間ですら性欲を我慢できないのに、妊娠した場合、彼は大丈夫だろうか?」と悩みます。
◇春奈先生のおはなし◇
女性側にも、自ら相手を気持ち良くすることが好きな人もいます。女性自身がしたいと感じるのであれば問題ないと思うのですが、舐めたり口内射精したりするのでも性感染症のリスクはあります。コンドームを装着するようにしてくださいね。
自分はしたくないのに、彼の気分や性欲に気を遣って仕方なくするのは、いびつな関係かもしれません。あなたに、無理やりそんなことをさせない彼でいてほしい。
生理期間と妊娠期間。もしかすると男性側にとって、重要度に差があるかもしれません。妊娠中の女性の負担は、一緒にいれば男性も絶対にわかるのではないでしょうか。思いやりと愛情があれば、「口でやってよ」なんて言わないはず。彼ひとりのわがままを通していい問題ではありません。一緒に我慢していくための関係を作っていけるといいですね。
生理期間にも関わらず、彼女で性欲を満たしたいというのは、彼の甘え。バシッと説明して断れるようになってくださいね。
―生理中は、妊娠しない?―
セックスをする直前で生理が始まったのですが、好奇心に負けてしまい行為をして中出し(膣内射精)を許しました。妊娠しなかったものの、後から不安がつのり、後悔しました。
◇春奈先生のおはなし◇
生理中も妊娠する可能性はあります。セックスでは、望まない妊娠を防ぐためにも、性感染症を予防するためにも、最後までコンドームを着けるようにしましょう。
何度も言いますが、生理中のセックスは病気のリスクがあるんです。コンドームをつけようと、避妊をしようと、セックスはしてはいけません。
<春奈先生から、みんなへ>
ー つらいのはあなた、体と心をいたわって ー
自分の体のつらさを一番理解できるのは、あなただけ。女性同士ですら、生理のつらさや悩みは違います。自分の体を癒やしてあげられるのも自分だけだということも、忘れないでください。
行動しないと何も変わりません。「つらい」という気持ちは、周りに伝えるようにしてね。婦人科受診も、そんなに身構えなくて大丈夫。解決方法がわかり、話を聞いてもらうだけでも気持ちが軽くなるかもしれません。決して恥ずかしいことではない。
かかりつけの病院があるだけでも、いざというときに安心できますし、子宮頸がん検診や子宮がん検診も忘れずに受けることができます。婦人科が、気軽に行ける場所になれればいいですね。
「生理×カップル」をテーマにしたイラストって、反響があるんです。行為ができないことを申し訳なく感じた彼女が「手か口で」って言ったのに対して、「そんなことしなくていい」って彼氏が答えたシチュエーションは、特に反響が大きかった!
彼に生理のつらさを理解してもらうのは当然だと思っていたし、女の子も当然休んでいてほしかったけど、みんなの中ではそれが当たり前じゃなかった。あこがれのシチュエーションだったんです。
どうか、正しい知識を身につけて、パートナーと良い関係を築いていってくださいね。
「生理は自己管理すべき」という問題ではありません。どんなに努力しても、つらい人はつらいんです。自分にも、周りにも、優しくしてください。
助け合える社会になっていくことを、願っています。
平泉春奈
イラストレーター
愛と美と官能をテーマに、カップルイラストや短編小説を創作。3冊目の著書「私たちは愛なんてものに」(KADOKAWA)を発売。
次回は11月2日に公開予定です。