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第8回 多様性を目指す時代を生きる、私たちに必要な“本当のやさしさ”

イラスト

 イラストレーター・平泉春奈さん(春奈先生)の描き下ろしイラストと一緒に、性のお悩みを解決するコーナー。第8回のテーマは「LGBTQ+」です。
 今回は当事者の皆さんに協力いただき、ご自身の経験や想いを寄せていただきました。春奈先生のもとには、とても丁寧につづられたメッセージが数十以上も届きました。この場を借りて、お礼を申し上げます。
 日本は、主要7カ国で同性カップルの法的保障を認めていない、唯一の国。アンケートでは、社会制度への疑問や変化を求める声がたくさん届きました。「多様性」という言葉に対して、葛藤を抱える声もありました。
 あなたのこと、あなたの身近な人のこと、これからの社会のこと、一緒に考えてみませんか。(聞き手・田中沙織)

◇春奈先生のおはなし◇

 40年ちょっと生きてきて、LGBTQ+にまつわる社会の在り方、特に発信の仕方は大きく変わってきました。SNSで、世界中に自身のセクシュアリティーをカミングアウトする方が増えた印象です。当事者を代表して声を上げる方も大勢います。

 今回は、カミングアウトについても紹介します。実は10代の頃、カミングアウトされたことがあります。そのとき、うまく言葉を返せなかった。
 子どもの頃から漫画や映画が好きで、同性同士の関係を描いた作品も見てきました。ドラマでは、「3年B組金八先生」の上戸彩さん演じる性同一性障害の生徒が話題になった回も、まさにリアルタイムで観た世代! しかし当時の私は、少女漫画的な感覚で受け止めてしまっていた。性同一性障害という言葉を知らなかった私は、初めての世界に衝撃を受けました。

 そんななか、いざ自分がカミングアウトを経験。抵抗の気持ちはなかったものの、どんな言葉をかけていいのかわからなくて、「そうなんだね」と曖昧な言葉しか返せませんでした。その子とは疎遠になってしまいましたが、今でも思い出します。

 イラストレーターの仕事を始めたここ10年くらいで、LGBTQ+について学び始めました。仕事をきっかけに、知ることができたんです。
 シスジェンダーとして生きてきた私は、100%悩みを分かってあげられないかもしれない。無責任な発言もしたくない。だからこそ、同じような悩みを抱えた人の想いをシェアして架け橋になることもあります。
 学ぶことで、知らず知らずのうちに誰かを傷つけることを防げるかもしれません。今回のコラムを、これからの参考にしてみてくださいね。

 

◇アンケート結果を紹介◇

 事前にアンケートも募集しました。みんなはこの結果、どう思う?
※10月上旬に平泉春奈さんのインスタグラム(@hiraizumiharuna0204)のストーリーズ機能を通して実施。8,191人から回答を得ました。

アンケート1

アンケート2

 

~カミングアウトについて~ 

アンケート3

 

◇カミングアウトをした経験がある方に、そのときの相手や様子を教えていただきました◇

※いただいたメッセージは、一部表現を簡略化、調整して紹介しております。

「受け入れてくれた家族、自己肯定できた」
Xジェンダー(男女のどちらにも属さない性自認を持つ人)

 18歳のとき、海外留学中に母にLINEで「女性として女性のことが好き」とカミングアウト。母は、「なんとなくわかっていたよ。あなたはあなただし、パパとママの娘であることは変わらない。自分の心地がいいならそれでいいじゃない」。表情や声色はわかりませんでしたが、受け入れてもらえたことが嬉しかったです。心が軽くなったし、服装など見た目の自己表現がしやすくなりました。
 21歳、私のパートナーの女性と、母と姉の4人で食事することに。姉はそこで、私のパートナーを知るという「無言のカミングアウト」。姉はいつも通りでしたが、あえて触れないようにしてくれたのかもしれません。しかし今では、日常会話でも(パートナーのことを)話題にするくらい、良い意味で何も思っていないようです。
 LGBTQ+の友人たちは、皆がみんな、家族に受け入れてもらえたというわけではないそうです。私は家族に恵まれていると思います。家族が受け入れてくれたからこそ、自己肯定できたし、気を落とさずに済みました
 父にも、いつかカミングアウトできる日がくるといいなと思います。

「テレビの特集に『気持ち悪い』、カミングアウトできていない相手」
パンセクシュアル(全性愛)

 全人類が恋愛対象、性的対象です。同性とも異性ともお付き合いし、体の関係を持ちました。同性パートナーと付き合っているとき、母と友人に紹介したことがあります。自然と受け入れてくれて、私の恋人として接してくれました
 は、LGBTQ+に対して偏見があります。テレビで特集されていたりすると「気持ち悪い」と言うようなタイプ。いまだにカミングアウトできていません。

「新しい名前を呼んでくれる、ただそれだけで」
トランスジェンダー:心と体の性が一致しない人

 今ほどLGBTQ+がメディアに取り上げられていなかった15年ほど前、友人たちにSNSでカミングアウト。新しい名前も公表しました。とても緊張しながら言葉を打ち込んだことを覚えています。
 結果は、「だからかー!納得!」「気付けなくてごめん」「もっと早く言ってよ!」「〇〇(以前の名前)との思い出がもう作れないのか。なんか寂しいなぁ」。どれも嬉しい反応でした。特に「△△(新しい名前)、飲みに行こう」。名前を呼んでくれる、ただそれだけで、自分の存在を認めてもらえた気がして涙が溢れました。
 その後、新しい自分として地元の同窓会に参加しました。ある友人が、「△△初めまして。△△のことまだよく知らないからさ、教えて!」。それを皮切りに、たくさんの人達が周りに集まってくれて、自分のことを改めて話すことができました。臆することなく自分のことを聞きに来てくれた友人には、感謝しかありません。

「バイである私の交友関係、受け入れてくれた彼氏の気持ち」
バイセクシュアル:両性愛

 彼氏と付き合って半年、バイセクシュアルであることを打ち明けました。すると「だから?」。あっさりした反応で安心しました。しかし実際は、私が男女両方恋愛対象というのはつらいようです。「お泊まりだと男女問わず恋愛対象がいる」ということになるわけです。それでも彼は、私の交友関係を男女関係なく否定しないでいてくれていて、感謝の気持ちしかありません。
 友人には、深刻な雰囲気にならないように「元カノいるんだよねー」と軽く伝えました。しかし、カミングアウトしたのは大学に入ってから。高校は体育で一緒に着替えることもあるし、「気持ち悪い」と思われて生活しにくくなるのは避けたかったんです。

「男性と婚約した私、地元で感じた生きづらさ」

 自分のセクシュアリティーに気づいたのは、中学生のときです。(大学生のとき)「もしかしてレズビアンなのかな?」と思っていた先輩が、共通の知人と付き合っていることを明かしてくれたのをきっかけに、私もカミングアウト。当時は女性と付き合っていて、周りにLGBTQ+の知り合いがいなかった私たちは、悩みを相談し合うようになりました。その点、とても楽だったと思います。
 30代になった今、私は地元に戻り男性と婚約しました。とても幸せです。しかし地方の地元は、まだまだLGBTQ+が許されない雰囲気を感じます。婚約者にも家族にも、バイセクシュアルだということは伝えていません。生きづらい、と思います。
 先輩は素敵なパートナーと出会い、幸せそうです。大好きな友人(先輩)が幸せで、とても嬉しい。私の結婚も喜んでくれて、結婚式にも参列してくれる予定です。

「『多様性』が注目される今、思うこと」

 20代後半の頃、片思いしていたレズビアンの人にカミングアウト。「性別じゃなくて、好きって気持ちが大事だよね」と言ってくれたことを覚えています。
 最近、多様性という言葉がクローズアップされているように感じます。20歳手前でパンセクシャルであることに気づきましたが、誰かに理解してほしいとは思っていません
 LGBTQ+に対して理解してくださる方は理解してくださいますし、理解が難しい方は難しいのだと思います。人にはそれぞれ、価値観があります。個人的には、「そんな人もいるんだな」くらいの感覚でとらえてくれたらいい。誰かを好きになって恋ができることが、幸せだと感じるんです。

「カミングアウトされたあなたに、伝えてほしい言葉」

 20代のパンセクシャルです。LGBTQ+に理解のある会社で働いており、トランスジェンダー(FTM:Female to Male)のパートナーとは職場で出会いました。職場の全員に公開しています。パートナーは、「男性として堂々と働けてとても嬉しい」と。
 しかし、こういう職場はごく稀ではないでしょうか。勇気を出してカミングアウトしても理解してもらえなかったり、アウティングされて自ら命を絶ったりする方のニュースも見ました。
 当事者は、大きな勇気と相手への信頼があってこそ、カミングアウトします。「話してくれてありがとう」と伝えてもらえると、心が救われます
 皆さんの理解と、性的マイノリティーについて少しでも知っていただきたいと思っています。今回のテーマが嬉しかったです。

◇春奈先生のおはなし◇

 このほかにも、たくさんのエピソードをいただきました。話してくれてありがとう。
 カミングアウトを身近な人に受け入れてもらったという話が多かった一方、何げない一言、例えば「私のことは好きにならないでね」と言われた人もいました。
 社会の中で「多様性」という言葉が先走り、現場が追いついていない状態なのではないでしょうか。長い差別の歴史を経て、私たちは今、マイノリティーという言葉がクローズアップされた時代を生きています。
 人は、互いの気遣いと思いやりで生きています。ジェンダーやセクシュアリティーに関係なく大切なこと。最後に紹介したエピソードでも、教えてくれたよね。気遣いや思いやりの連鎖をきっかけに「受け止めたい」と思える人が増えていくことを願っています。

 

~パートナーについて~ 

アンケート4

 

◇パートナーの有無や関係について、エピソードを寄せていただきました◇

「FTMの僕と彼女、家族との向き合い方」

 FTMのトランスジェンダーです。4年付き合っているノンケ(異性愛者)の彼女がいます。僕の家族には既に紹介しています。
 彼女は一人っ子。彼女の母親は僕たちの関係を承知していますが、やはり認めたくない(娘はいずれ、ちゃんと男性と結婚するだろう)という印象です。父親は、厳格なお父様という様子で僕のこともまだ知りません。
 これから先、彼女の両親とどう向き合っていくべきか。彼女も一人で不安を抱えて、悩んでしまうことがあります。その度に「これからどうしていくか、どう生きていきたいのか」をしっかり話し合いながら乗り越えています。

◇春奈先生のおはなし◇

 遅かれ早かれ、二人の人生と親を、切り離して考えなければならないときが来るのではないでしょうか。成人している二人であれば、なおさら自分たちの意志が大切。職業や家柄、宗教など、愛し合う二人の間には障壁が多いもの!
 「トランスジェンダーのパートナー」という理由で恋人の家族に受け入れてもらえないのは、自身のアイデンティティーを否定されるようで、つらいですね。愛する人の家族を想い、互いに寄り添い合うことも必要です。しかし最後は、自分たちの人生や未来をどうしたいのか、二人で決めてほしい。

 

「LGBTQ+というだけで、なぜ」

 異性とも同性ともお付き合いをしたことがあります。誰とも、体の関係を持ったことはありません。LGBTQ+だけの話ではないと思いますが、同性と付き合ったことがあるというだけで「男役やるの?」「男とやりたいと思わないの?」と、セクハラまがいの言葉をかけられることが多いです。
 異性恋愛だったら絶対に聞かないようなことまで首を突っ込まれる。あまりいい気持ちにはならないです。

◇春奈先生のおはなし◇

 これはもう、相手の人間性の問題!
 こういうことを悪気なくあなたに言ってしまう人には、時には牙をむいていい。「セクハラですよ」「そういうことを言われると気分が悪いです」。どうでもいい相手や、一瞬しか付き合いがないような人であればスルーしてしまうのもあり! 職場の人や、その後も関係が続くようであれば、言われたら嫌だという気持ちを伝えることも大切です。

 

「自分らしく働ける職場を願って」

 7年の付き合いになる同性パートナーがいます。同じ職場ですが、会社には伝えていません。妊活も考えていて、会社にはどう伝えるか、そもそも伝えないのかを悩んでいます。職場でセクシュアリティーを公表することによって、これからの仕事や立場上、よく思われないことがあるかもしれない、変な噂を立てられるかもしれないと思うと、伝えられずにいます。
 できるのであればカミングアウトして、私たちも、同じ悩みを抱えている同僚も、もっと自分らしく働ける環境になればいいのに。

◇春奈先生のおはなし◇

 周りの人のことを想えるって、すばらしい! 自分がどこまでの覚悟を持てるかが大切です。今の感情や意思、カミングアウトすることによるメリットとデメリットを書きだしてみるのはどうかな?
 私は大事な選択を迫られたとき、「自分にとってどちらが後悔なく生きられるか、どっちの自分が好きか、幸せを感じられるか」を軸に決めています。そうやって導き出した選択が「伝えない」であったとしても、間違いではないんです。後悔のない選択ができることを願っています。

 ちょこっと豆知識……同性パートナーがいる社員にも、男女の結婚同様に祝い金を贈ったり、妊活しながらの働き方をサポートしたりする企業もあるそうですよ。

 

「アウティングの苦しみ」

 30代のトランスジェンダーです。治療が完了しておらず、完パス(完全にパス:周囲からトランスジェンダーだと気付かれない)できないことも。セクシュアリティーについてはオープンにしているため、職場でよくアウティングされます。
 パートナーがいることをアウティングされてしまうことも嫌で、最近はパートナーがいるのを隠すようになりました。パートナーは異性愛者ですが、「(恋人は)はじめから同性愛者なの?」と聞かれることも多く、トランスジェンダーとの恋愛はセクシュアリティーを勘違いされやすいと感じます。
 他者のセクシュアリティーを答えること自体アウティングになるので、困ることも多いです。できれば聞かないでほしいと思ってしまいます。

◇春奈先生のおはなし◇

 アウティング……性的指向や性自認などの性のありかたを、本人の同意なく他人に知らせてしまうこと。

 アウティングについては、相手も悪気なく言ってしまったというのがわかるからこそ、モヤモヤを抱える人もいるのではないでしょうか。「自分から伝えたし」「良かれと思って言ったんだろうな」と葛藤してしまう。つらいですよね。ご自身がオープンな雰囲気だと、なおさら勘違いして受け取ってしまい、アウティングしてしまう人もいるかもしれません。
 アウティングについての知識も、じゅうぶん社会に浸透していないかもしれない。高校生の娘に聞いてみると、娘が通う学校ではアウティングについて習ったことはないそうです。みんなには、今回のコラムをきっかけに知っておいてほしい。大切なのは、ちょっとの気遣い。発言する前に、一歩立ち止まって考えられるようになってね。

<春奈先生おすすめの映画を紹介!>

「アデル、ブルーは熱い色」(2013年)
監督=アブデラティフ・ケシシュ 製作国=フランス 出演=レア・セドゥ、アデル・エグザルコプロスほか

 舞台はフランス。男性とのセックスを経験した高校生アデルは、燃え切らない違和感を覚えます。セクシュアリティーに葛藤しながら、美大生・エマとの運命的な出会いをきっかけに、二人が愛し合う様子がたっぷり描かれる作品です。

 エマとの関係を聞いてくる同級生に向けて、「私はレズビアンじゃない!」と叫ぶアデル。冷たく浴びせられる差別の刃に、自分を否定し傷つけながらも、怒りや憤りをぶつけるアデルの様子は生々しく、胸が痛くなります。

 見ているこちらまで惹かれるほどの魅力があふれる、エマ。ブルーに染めたショートヘア―で中性的かと思いきや、俳優同士が全てを露わにするセックスシーンでは、女性的な美しさを秘めていました。
 互いを求め愛し合うセックスは、「対等」な関係だと思えた。観ていて心地よかったんです。女性と男性のセックスでは、「相手の体を受け入れる」という立場が生まれてしまう。もちろん、その関係にも魅力はあります。しかしアデルとエマによる女性同士の愛し合い方には、お互いが同じくらいの熱量で相手を満たし、求めていく。

 女性同士の恋愛を描いた映画であり、究極の愛の物語。年齢制限はありますが、興味がある人はぜひ観てみてね。

 ほかにも、2020年に公開された「his」(監督=今泉力哉、出演=宮沢氷魚、藤原季節ほか)も、当事者を巡る社会の反応をリアルに描いています。記憶に残っている大好きな作品です。

 「アデル、ブルーは熱い色」公式サイト
http://www.adele-blue.com

 「his」公式サイト
https://happinet-phantom.com/his-movie/index.html

 

~今の社会、どう思う?~ 

◇みんなに、社会の制度や仕組みに求めていること、疑問を聞きました◇

「多様性を目指す社会が実現したもの」

 性別や個人をあらわす言葉として、「多様性」はとても良い表現だと思っていました。個性や想いを外に示してもいい、表現できる。それを求める人への救いの言葉だと思っていたんです。
 最近、多様性という言葉を利用して、間違った方向に進んでしまっている気がします。あるべき権利を侵害したり奪ったりせず、変化を求めすぎないことも、平和を守る方法のひとつなのかな、と考えてしまいます。

◇春奈先生のおはなし◇

 LGBTQ+をめぐって、社会では様々な動きがありました。

 ちょこっと豆知識……2023年に最高裁は、トランスジェンダーが戸籍上の性別を変える際に必要な性別適合手術について、「生殖能力の喪失を求めることは憲法違反」と判断。性的少数者に対する理解を広めるLGBT理解増進法も施行されました。

 私の個人的な意見を伝えるね。
 規則や法律以前に大切なのは、人として相手を思いやれるかどうかではないでしょうか。お互いを尊重し合い、相手の立場に立って気遣い合うこと。これは、規律でどうこうできるものではありません。
 たしかに、ルールがあると安心するよね。無責任なことをして非難されたくないもの。
 「体の性別で分けられたトイレや温泉、更衣室を、本人の性自認で使用できるのかどうか」を巡っても、様々な意見が飛び交っています。LGBTQ+の方もシスジェンダーの方も、自分の意見や言動に迷うってことは、相手のことを気遣って悩んでいるということ。優しさでもあるんじゃないかな。互いの尊重なくして、相手の立場に立たずに、それぞれの意見や権利を押し通して良いものではありません。

「小さな子どもの性自認」

 保育園で働いていたとき、園児の名前に「ちゃん」「くん」をつけることや、「男の子はこっち」など、性別で分けないよう指導されました。ある日、「男の子」と呼んだときにお返事をした女の子がいたのですが、他の職員が「あなたは女の子でしょ!」と座らせました。まだ2、3歳。周りにつられただけかもしれないし、すでに「自分は男の子」という意識があったのかはわかりません。教育・保育現場での対応は難しいです。

◇春奈先生のおはなし◇

 その子が「自分は男の子なの、女の子なの」と伝え始めたら、きちんと寄り添ってほしい。それからでも問題ないのではないでしょうか。自分自身や物事がよくわからないうちに、大人の価値観で戸惑わせてしまってはいけません。
 表情や言動など子どものサインに気づき、臨機応変に対応していくことが、何より大切ではないでしょうか。

「特別支援級での、児童のサポート」

 小学校で特別支援級の担任をしています。男子児童も在籍していますが、担任は女性のみで、体育の着替えの見守りに困ります。目は離したくないけれど、着替えているときに異性の教員がいて良いものか。悩ましいです。

◇春奈先生のおはなし◇

 これは、学校側がすぐに解決すべき問題!
 私の次女は、小学校の特別支援級に通っています。担任の先生は、男性女性それぞれいらっしゃいます。そうでないと、現場が成り立たないからです。
 先日、学校行事でキャンプがありました。お風呂の時間、なかには自分で体を洗えない児童もいます。そんなとき、先生たちはサポートしてくださるんです。
 状況によっては、教育委員会に相談してもいいかもしれないね。

「男女で異なる制服、早く着替えたい」
デミセクシュアル:精神的なつながりを感じる相手に対してだけ性的な欲求を抱く

 バイセクシュアルで、デミセクシュアルかもしれません。男性にも女性にも恋愛感情を抱きますが、性的欲求はほとんどなく、本当に気心知れた相手にしか発生しません。
 困ったことといえば、男女で制服が異なること。バーテンダーのアルバイトをしようと思ったのですが、女性の制服はスカートでした。スカートを履いている自分があまりにも恥ずかしくて、悲しかった。

選べる制服が増えてきましたが、男性がスカートを選ぶことには抵抗があるのでしょうか。

◇春奈先生のおはなし◇

 本人が望む制服を着られるようにすることが、職場が取るべき対応ではないでしょうか。職場を評価し、見極めるポイントにしてもいいくらい。

 制服の選択制を取り入れる学校も増えています。とはいえ思春期を迎えた生徒たちにとって、特にズボンをはいて育った男の子がスカートを選ぶことは、ハードルが高いよね。「男子の制服」「女子の制服」ではなく、希望する人は私服を選べるようにすることも方法のひとつではないでしょうか。
 何でもかんでも、選択肢を広げて解決できるわけではありません。本人や現場の気持ちが追いつかないまま、規則だけ先走っていては、幸せな未来にはならないのではないでしょうか。

「代々受け継がれた振り袖、女性の格好って?」
クエスチョニング:自分の心の性や好きになる人の性が定まっていない

 成人式の前撮りで、(家族から)親族が代々着ている花柄の着物を着て写真を撮ってほしいと言われています。「女の子っぽい」を受け付けられない自分は、赤色に花柄が描かれた着物が本当に受け入れられません。断っているのに、家族は納得してくれない。何万円もかけて撮影してすぐ脱ぐのも、もったいない。(家族にとって)記念になるのは、わかっているんです。
 就活でも、自分のセクシュアリティーを企業に伝えるのかどうか、服装も男性の格好をしてもいいのか悩んでいます。不利に働いてしまうでしょうか。無事に就職できたとしても、メイクに興味のなかった私を、上の世代の方はどう思うのか。「メイクしていない女性は身なりがなっていない」「社会人としてダメ」と言われないだろうか。気持ちが落ち込みます。

◇春奈先生のおはなし◇

 自分がどこまで許容できるのかを、一度しっかり考えてみるのはどうかな。あなたの、家族に対する優しさも伝わってきました。「振り袖姿のあなたを見たい」「一緒に写真を撮りたい」という家族の思いもあるんだよね。しっかり話し合えることを、願っています。

 就活におけるセクシュアリティーや自分が望むファッションは、難しい課題だよね。企業をふるいにかける気持ちで臨んでもいいんじゃないかな? セクシュアリティーを伝えたことで差別的なことを言われたり、評価に影響したりするのであれば、たとえ入社したとしても苦労するのは目に見えています。その反応が、企業の社風だと言うことです。

 堂々とパンツスーツを着て、自分のしたい装いで挑む。そんなあなたを「欲しい」と言ってくれる会社を選んでほしい!

人を愛する権利は誰にでもある。同性婚が認められたらいいのに。

◇春奈先生のおはなし◇

 改めて、私の個人的な意見を伝えるね。
 正直、同性婚については政治や政治家の利権が影響しているのではないでしょうか。だからこそ伝えたいのは、「選挙に行こう!」ということ。各政党や政治家が、どのような意見を持ち、なにを実現しようとしているのかを知ってほしい。
 政治家が法律を決める。その政治家を選ぶのはあなただということを忘れないで。

<春奈先生から、みんなへ>

― 正解はない、だからこそ考え続けて ―

 今回、アンケートを通して多くのことを学ばせていただきました。協力してくれたみんな、ありがとう。

 これからも、悩みを抱えている人も克服した人も、いつでも私に気持ちを打ち明けてほしい。私もまだまだ勉強不足でわからないことも多いけれど、自分なりの答えを伝えていきたいし、みんなをつなぐ架け橋になりたいんです。
 十人十色なものごとに、「これだ!」という正解を作る必要はありません。悩んだとき、迷ったとき、しっかり想像力を働かせて考えてください。

 今回のテーマでは、90%以上の方が「当事者ではない」という回答でした。もしかすると、これまでのコラムと比べて、読んでくれる人は少ないのかもしれません。

 最後まで読んでくれた、90%のなかにいるあなたに伝えたいこと。
 もしも、誰かがカミングアウトしてくれたとき、「教えてくれてありがとう」と言える人になっていてほしいと願っています。尊重や思いやりの連鎖で、少しずつでも、優しい世界をつくっていきませんか。

 ポリアモリー(複数恋愛主義)や同性カップルのイラストを描いたことがあります。「愛」のなかに、当たり前にLGBTQ+の人物を描けるイラストレーターでありたい。私自身も、日々学び続けていきたいです。考え続けることが大切です。

 悩みを抱える人に、きちんと言葉をかけられる。
 そんな人ってかっこいいと思いませんか。


 

平泉春奈

 平泉春奈

 イラストレーター
 愛と美と官能をテーマに、カップルイラストや短編小説を創作。3冊目の著書「私たちは愛なんてものに」(KADOKAWA)を発売。

 


 

次回は12月7日に公開予定です。

(2024年11月2日。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。)