ガタゴト揺れる列車の天井で、天の川が輝いた。作家・宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」をモチーフにした観光列車の「SL銀河」。蒸気機関車「C58 239」にひかれた4両の客車の1号車には、プラネタリウム室がある。上映が終わって部屋を出ると、車窓に田園風景が広がっていた。列車は花巻駅にすべり込んだ。賢治の郷里だ。
昨年4月、JR東日本が釜石線の釜石―花巻間で、観光面からの震災復興支援として週末を中心に運行を始めた。黒い煙を吐いて走る機関車と、青のグラデーションで夜から朝になる空を表した客車。「日本一きれいなSLと言ってくださるファンの方もいます」と、蒲沢(がまざわ)広さん(67)。元SL機関士で今はJRの関連会社に勤める。SLが車庫にある間も石炭の火を燃やし続ける「保火(ほか)番」だ。
SL銀河到着後、花巻駅周辺は一時にぎわい、列車が去ると再び静かに。「賢治さんの時代は、いつもにぎやかだったそうなんですが」。賢治の弟の孫で、駅近くで賢治ゆかりの小物を販売する「林風舎」の宮沢和樹さん(51)は話す。
「銀河鉄道の夜」のモデルは、釜石線の前身の岩手軽便鉄道と考えられる。和樹さんの弟で宮沢賢治記念館学芸員の明裕さん(37)は「花巻に新しいものを運んでくる汽車に、青年期の賢治さんも興味をかき立てられて物語が生まれたのではないでしょうか」。SLが夢を運ぶのは昔も今も変わらない。
文 河瀬久美/撮影 横関一浩
JR釜石線は、花巻駅(岩手県花巻市)と釜石駅(釜石市)を結ぶ90.2キロ。「銀河ドリームライン釜石線」の愛称をもち、24駅すべてに賢治が興味をもっていたエスペラント語の別称が付けられている。花巻駅は「チェールアルコ(虹)」。 林風舎(TEL0198・22・7010)は花巻駅から徒歩3分。1階では賢治ゆかりのオリジナル小物などを販売し、2階は喫茶室になっている。 今年4月にリニューアルオープンした宮沢賢治記念館(TEL31・2319)は、2駅隣の新花巻駅から車で3分。
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SL銀河の機関車「C58 239」は1940年代から岩手県内のJR山田線などを運行し、72年に引退。盛岡市の公園に展示されていた。運行情報などは、JR東日本盛岡支社のホームページで。 |