列車が駅に近づくと、北垣美也子さんは調理の手を止めた。白い手袋をはめ、ホームに出て列車を迎える。「えろう暑いですね!」。乗客に声をかけていると30秒ほどで発車。手を大きく左右に振って、動き出した列車を見送った。
ふだんは駅の中で米粉パンを製造販売する「駅舎工房モン・ファボリ」の店長だ。障害者に就労の機会を設ける地元の社会福祉法人ゆたか会が、地産の酒米「野条穂(のじょうほ)」と無人駅の法華口駅を結びつける機会を探していた。米粉の持つレシピ通りに作れない奥深さにひかれ、「米粉料理研究家」として活動していた北垣さんは、3年ほど前にその取り組みを知り、ゆたか会の職員に転身。会が運営する店で知的障害者を含む4人のスタッフとともに働くようになった。
北条鉄道が赤字路線を活性化させるために募集した「ボランティア駅長」に応募し、採用されたのも同じころ。トレードマークの白手袋は、ある光景から生まれた。開業準備で上京する際、飛行機の窓から、手を左右に大きく振って見送る整備士が見えた。「勇気づけられ、開業の不安が薄らぎました」。以来、遠くからでも目立つ白手袋をはめ、手を振る見送りを始めた。
そんな姿をカメラに収めるファンもいる。加古川市在住の会社員、西原弘治さん(47)は、毎週末駅に通う。「立ち姿がきれい。気さくな方で5歳の娘も懐いています」
文 岡山朋代/撮影 楠本涼
北条鉄道は、粟生(あお)駅(兵庫県小野市)と北条町駅(加西市)を結ぶ13.6キロ。 法華口駅隣の播磨下里駅では、鉄道好きの僧侶でボランティア駅長の畦田(うねだ)清祐さん(37)が月に2回、悩み相談などに応じる下里庵(あん)を開く。次回は8月30日(日)午前10時50分~午後2時48分。正午から「鉄道ファンの集い」も。問い合わせは額田(がくでん)寺(072・987・5245)。 北条町駅前の商業施設からバスで10分の県立フラワーセンター(TEL0790・47・1182)では、ヒマワリやサルビアなどが見ごろを迎えている。
|
||
パンに使われている「野条穂」の米粉は、焼き上がりのもちもちした食感が特徴。地元で採れる野菜や卵などを挟み込んだ「きまぐれ駅長サンド」(380円、写真)が人気を集めている。問い合わせは駅舎工房モン・ファボリ(0790・20・7368)。 |