1両編成の列車が雪煙をあげてホームに滑り込んでいく。11月下旬、例年より早く寒気に覆われた北海道。留萌線の終着駅を降りると、雪原の中に木造平屋建ての駅舎がたたずんでいた。線路の先には終点を示す車止め標識があり、駅から200メートル歩けば増毛港の岸壁に着く。
昨年11月10日に亡くなった高倉健の主演映画「駅 STATION」(1981年)の舞台になった。高倉演じる刑事の英次が降り立ったのもこの駅だ。倍賞千恵子扮する居酒屋女将(おかみ)の桐子と出会った改札口やホームが残る。撮影当時は駅員がいたが、84年に駅は無人化され、駅舎の一部が取り壊された。
駅舎の向かいには、映画に登場した風待(かざまち)食堂(現観光案内所)が立つ。風待食堂は本当は雑貨店だった。元店主の多田令子さん(77)は「健さんは、気さくな人だった」と懐かしむ。10月28日から11月10日まで、健さんの一周忌を迎えて置いた記帳には、撮影のエキストラに参加した町民も含め428人の名が並んだ。
駅開業の1921年当時は、ニシンの輸送拠点としてにぎわった。「国鉄時代は増毛駅に転車台があった」と留萌駅長の大野敏路さん(58)。だがその後、沿線の過疎化や乗用車の普及により運行本数は減った。留萌―増毛駅間は現在1日13本、1列車あたりの乗客は平均3人。バスが線路に並走し年間約2億700万円の赤字に。今年8月、JR北海道が同区間を来年度中に廃止する方針を示した。以降、鉄道ファンが急増している。
地元の老舗、国稀(くにまれ)酒造4代目の本間桜さん(55)は「廃線は寂しい。でも終着駅、映画のロケ地という素材を生かし、駅舎の復元など新たな街づくりができれば」と願う。健さんも、駅の再出発を見守っているに違いない。
文 石井広子/撮影 谷本結利
JR留萌線は深川駅(北海道深川市)から留萌駅(留萌市)を経て、増毛駅(増毛町)を結ぶ66.8キロ。 増毛駅から徒歩5分の国稀酒造(TEL0164・53・1050)は1882年創業。映画では英次の実家という設定で使われた。映画のパネルも展示。今年の9月から、駅舎写真入りラベルを貼った日本酒「終着駅 増毛」(300ミリリットル540円)を販売している。 阿分(あふん)駅と信砂(のぶしゃ)駅の間にある阿分稲荷神社は、英次と桐子が初詣をする場面で登場した。 留萌駅から車で10分の黄金(おうごん)岬海浜公園は「日本夕陽百選」に選ばれた名所。問い合わせは留萌観光協会(0164・43・6817)。
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映画ですず子(烏丸せつこ)が働いていた風待食堂は昭和8(1933)年築。今は観光案内所で、4月下旬~11月上旬に営業。 |