城崎温泉駅から普通列車で西へ30キロ。トンネルを抜け、余部橋梁(きょうりょう)に差し掛かった瞬間、眼下に青々とした日本海が広がった。高さ41メートル。JR山陰線随一の絶景で知られるコンクリート橋だ。
約20秒後、駅に着いた。ホームに接続する展望施設「空の駅」では、観光客が「空中散歩」を楽しんでいた。旧余部鉄橋の橋脚と橋桁の一部を活用しており、年間27万人が訪れるという。
巨大な赤い橋脚が海に映える旧鉄橋は、1912年の完成から1世紀近く、地域住民や鉄道ファンを魅了してきた。2010年に架け替えられたきっかけは、1986年12月の惨事だ。回送列車が強風にあおられ鉄橋から転落。カニ加工工場を直撃し、女性従業員5人と車掌が亡くなった。事故後、風による運行規制が強化されたが、「うらにし」と呼ばれる強い季節風が吹く冬に運休が増加。惜しまれつつも解体された。
橋の下に慰霊観音像がある。台座には犠牲者の名が刻まれている。妻・晴子さん(当時46)を亡くした岡本倫明(みちあき)さん(81)は、事故から30年となる今もほぼ毎日掃除をし、手を合わせる。「あの日がまるで昨日のことのように感じます」
コンクリート橋は味気ないと嘆く声も多い。だが、地元の「あまるべ振興会」の理事、馬場幸男さん(60)は言う。「日本海の絶景は変わりません」。そして続けた。「安全な橋として次の100年も愛され続けるでしょう」
文 曽根牧子/撮影 楠本涼
JR山陰線は京都駅(京都市)と幡生(はたぶ)駅(山口県下関市)を結び、支線を含む676キロ。 余部橋梁の下にある道の駅あまるべ(TEL0796・20・3617)では、資料や映像で余部鉄橋の歴史を伝える。 香住駅周辺にはカニ料理を味わえる民宿が並ぶ。江戸時代の絵師・円山応挙と弟子が描いた165の障壁画を所蔵する大乗寺(TEL36・0602、800円)へは、駅から徒歩20分。 城崎温泉駅で下車し、七つの外湯を巡るのもおすすめ。1日入り放題になる券は1200円。問い合わせは城崎温泉観光協会(32・3663)。
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新橋梁は、透明なアクリル製の防風壁を備えたシンプルなデザイン。景観美と安全性を両立させ、「土木学会田中賞」を受賞した。1988年に建てられた観音像が事故現場の跡地を見守る。 |