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田主丸(たぬしまる)駅
(福岡県、JR久大(きゅうだい)線)

カッパ愛に満ちた町の顔

田主丸駅
終業式帰りの高校生を見送るカッパ。駅舎の2階にはカッパの資料が展示されている
田主丸駅 地図

 可愛らしい駅舎が登場したのは約20年前。老朽化した古い駅を、竹下政権が全国の市町村に配った「ふるさと創生」1億円を使って建て直すことになった。近くの県立浮羽工業高校の生徒からカッパをモチーフにしたデザインを募集。寄せられた十数案をもとに設計した新駅舎が1992年4月に完成した。

 そもそも何でカッパなのか?

 地元の子たちにカッパ伝説を伝える菰田馨蔵(こもだけいぞう)さん(62)に聞くと、「カッパは全国にいるけど、ここが有名になったのは作家の火野葦平(あしへい)さんのおかげやね」。

 カッパの総大将「九千坊」をはじめ数々の伝説が残るこの地で、火野は生きたカッパに会った。故・上村政雄さん。ひと潜りすれば口と両脇に1匹ずつのコイを捕ってくる。すっかり魅せられた火野は「鯉(こい)とりまあしゃん」を作品にとりあげ頻繁に田主丸を訪れるようになった。

 火野が地元の人たちに結成を勧めたのが「田主丸河童(かっぱ)族」。酒を酌み交わしては夢を語り、カッパの町の売り込みに知恵をしぼる集まりだ。菰田さんも河童族の一人。「火野さんがおらんかったら、カッパの駅舎はなかったかもしれんね」

 現役高校生に駅舎について聞いてみると「可愛い」「面白い」「ユニーク」……との答え。残念ながら、卒業生がデザインしたと知る生徒には会えなかった。が、そんなことは「屁(へ)の河童」。とでも言いたげな顔で、カッパの駅舎は今日もでーんと鎮座している。

 文 岩本恵美撮影 比田勝大直

 

  JR久大線は久留米駅(福岡県久留米市)と大分駅(大分市)を結ぶ141.5キロ。

 2005年に久留米市と合併した田主丸町は巨峰の産地として知られ、駅周辺に64軒の観光農園がある。露地もののブドウ狩りは8月10日にシーズンが始まり9月末ごろまで。問い合わせは久留米観光コンベンション国際交流協会田主丸事務所(0943・72・4956)。

 久留米百年公園は久留米駅からバスで約20分。筑後川沿いにサイクリングロードがある。貸自転車はサイクリングセンター(TEL0942・38・0486、(土)(日)(祝))で。4時間300円、小中学生150円。 

 河童のへそ(1個70円)は、「あけぼのや」(TEL0943・72・2346)の先代で初代河童族の藤田正登さんが考案したまんじゅう。真ん中をへこませ、黒ゴマを散らした。子どもたちからは「カッパにへそってあるの」という質問が絶えないそうだ。

河童のへそ

  

(2013年7月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)