カーブの途中で列車が大きく傾いて止まった。ホームとの間隔は数十センチ。加えて階段2段分ほどの段差がある。子ども連れやお年寄りに駅員が手を差し伸べる。「体格がいい男の子を抱えてよろめいた時には、その子もお客さんも大笑いでした」と駅員の角野典孝さん(55)。
8月4日と5日。毎年2日間だけ営業する臨時駅だ。瀬戸内の浜まで徒歩1分。その沖合250メートルの小島に本殿がある津嶋神社の夏祭りに合わせて、普通列車が止まる。島には夏祭りの間だけ橋がかかる。子どもの健康と成長の守り神とされる神社に、歩いて参拝できる特別な2日間。毎年5、6万人が訪れる。
夏祭り限定の駅には全国から鉄道ファンも訪れる。駅名標を背に家族で写真を撮っていた屋仲正則さん(40)は名古屋市から来た。全国の駅を巡る旅にはいつも小学生の息子2人が同行。今回は「参拝も」と2歳の長女も連れてきた。
長男の信之介君(11)の手帳には、駅のスタンプがきれいに押されていた。高松市の鉄道カメラマン、坪内政美さん(38)が先月寄贈したものだ。昨年、撮影で駅を訪れた際に「子どもの記念になるものはありませんか」と駅員に尋ねる母親の姿を見て思い立ったという。
「日本一短い営業期間の駅」「大正四年五月七日開業」……鉄道好きらしくデータをぎっしり書き込んだスタンプの隅に描かれた男の子が、「子どもの神様」を指さして笑っていた。
文 山田絵理佳/撮影 浅川周三
JR予讃線は、高松駅(高松市)-宇和島駅(愛媛県宇和島市)間の計327キロ(内子線区間を除く)。 丸亀市では江戸時代にこんぴら参りの土産としてうちわの生産が始まり、全国シェア9割以上を誇っている。丸亀駅から徒歩15分のうちわの港ミュージアム(TEL0877・24・7055)でうちわ作りを体験できる(1本500円)。史跡高松城跡(玉藻公園)は高松駅から徒歩5分。堀の水が瀬戸内海とつながっていてマダイが生息。100円でエサやりができる。おみくじ付き。問い合わせは県造園事業協同組合(087・851・1521)。 |
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津嶋神社は「小児守護」の神様。江戸時代から信仰を集める。1933年に橋が架けられ現在の橋は4代目。夏祭りの時以外は骨組みだけにされ渡れない。津島ノ宮駅から徒歩1分の海岸に遥拝(ようはい)殿がある。 |