読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
63プレゼント

相模原駅(神奈川県、JR横浜線)

ホームになぜか、桜の古木

相模原駅
通勤客を見守るように満開の桜がホームを覆う。後方は米軍補給廠
相模原駅 地図

 改札からエスカレーターを下りると、上りホームにどっしり根を生やした桜の木が目に飛び込んできた。

 大きく広げた枝ぶりからかなり樹齢を重ねているように見えるが、いつからあるのかはJRも相模原市もわからないとのこと。でもなぜこんなところに?

 3年前、県内で3番目に誕生した政令指定都市の玄関駅。北側には、小さなロータリーをはさんで米陸軍相模総合補給廠(しょう)の広大な敷地が広がる。前身は旧日本陸軍の造兵廠(兵器工場)。駅は造兵廠に通勤する人々のため1941年につくられた。もともとは桜があるホームのすぐそばまでがその敷地だったというから、そちらと関係があるのかも――。

 そんな想像をしつつ市立博物館で史料を調べてみたが、何の記述もなかった。ただ、55年ごろの駅の写真に桜と思われる若木を発見。74年の航空写真では、ホーム脇に複数の木が並んでいた。

 幼い頃から米軍補給廠の近くに住む坂内(ばんない)ツナ子さん(69)が絵を描きながら教えてくれた。「昔からホームの横に何本か桜があったのよ。それがホームを広げたときに今みたいな形になって。枯れたかどうかして1本だけになったのね」

 ホーム拡張時に桜が切られなかった理由は、五十嵐修駅長(55)の話で腑(ふ)に落ちた。「桜がある部分は財務省から借りている土地なんです」。つまり桜は国有財産、というわけだ。

 特別な物語を期待しすぎたか。

 ホームに戻ると、男性が5分咲きの桜を一眼レフカメラで熱心に撮っていた。会社員の仁平幸男さん(37)。「毎日の通勤で季節が感じられる。葉桜もまたいいんですよ」。休みの今日は撮影に専念。うまく撮れたらSNS(交流サイト)に載せますと笑った。

 文 伊東絵美撮影 馬田広亘

 

 JR横浜線は、京浜東北線東神奈川駅(横浜市神奈川区)と中央線八王子駅(東京都八王子市)を結ぶ42.6キロ。

 相模原駅から徒歩15分の市役所さくら通りから西門交差点までの約1.6キロには約300本のソメイヨシノが並ぶ。4月6日(土)、7日(日)には「市民桜まつり」が開かれ、さまざまな催しがある。問い合わせは実行委事務局(042・769・8236)。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)相模原キャンパス(TEL759・8008)は2駅隣の淵野辺駅から歩いて約20分。小惑星探査機「はやぶさ」やM-Ⅴロケットの原寸模型などが見学できる。宇宙食やオリジナルグッズを扱う売店もある。  

 相模原駅から南に約1キロの買物公園通りに岡本太郎作のオブジェ「呼ぶ 赤い手、青い手」がある。周辺の西門商店街が活性化のために制作を依頼し、1982年に設置された。手は太郎が好んだモチーフの一つ。ユーモラスな表情で道行く人を出迎えている。

  

(2013年4月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)