家々の前にともされたぼんぼりが通りを照らす。編み笠を目深にかぶった踊り手たちが胡弓(こきゅう)に合わせて静かに進む。
♪キタサノサーアー
ドッコイサノサーッサー
繰り返されるおわら節。毎年9月1日からの3日間、富山市八尾町で催される「おわら風の盆」だ。山懐に抱かれた風の強い土地。台風が近づく時季に、風を鎮める祈りの踊りとして発展した。
夜通し街を練り歩く踊り手も多く、訪れる客もまた、ともに夜明けを迎える。始発列車で家路につく客人に別れを告げる「見送りおわら」は、いまや駅の風物詩。踊り手は18歳から25歳、福島おわら保存会の若いメンバーたちだ。
起こりは1963(昭和38)年ごろ。雨宿りに駅に立ち寄った踊り手たちが、「ただ雨宿りしてるだけなんも、つまらんね」と改札の近くで踊った。その後、お客さんにも喜んでもらいたいとの声が若手から上がり、いまの形になったそうだ。「いつの頃からか、お客さんが『見送りおわら』って言うてくれるようになったんです」と当時を知る福島おわら保存会の前会長、五十嵐利男さん(68)。
東の空が白み始めた頃、眠い目をこすりながらホームに向かう若い踊り手たちを見ようと、柵の外にも多くの人が詰めかけた。応援も含めて20人を超える駅員が人混みの整理にあたる。5時45分、富山行き始発列車の発車時刻。ホームの風がひとときやんだ。
文 辻村碧/撮影 田頭真理子
JR高山線は岐阜駅(岐阜市)と富山駅(富山市)を結ぶ225.8キロ。 富山市街地と立山連峰を一望できる呉羽丘陵の展望台は、西富山駅から車で約10分。県立図書館北側には、4月に淡いピンクの花が咲くエドヒガンザクラの群生地も。問い合わせは市公園緑地課(076・443・2110)。 富山名物マスずしの老舗が富山駅構内に開いたおむすび屋 源(TEL431・2104)では、「白エビかき揚げのおむすび」「黒とろろのおむすび」(各180円)など、地元の名産と特注の県産米を使ったおむすびを販売。 |
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八尾おわら資料館(TEL076・455・1780)は駅からバスで13分。映像で「おわら風の盆」を楽しめるほか、おわら復興に努めた故川崎順二氏にまつわる資料などを展示する。高校生以上200円、小中学生100円。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。 |