午前6時40分過ぎ。山あいのホームに展望車とサロンカーを連結した3両編成のエンジン音が響いた。30人ほどの高校生が慣れた様子で乗り込み、おにぎりや携帯電話を片手にノートを開く。
定期試験の期間中だけ走る「スタディートレイン」。いつもは2両の編成が3両に増える。ゆっくり勉強しながら通学してほしいと一昨年の試運転を経て昨年1学期の中間試験から運行が始まった。
沿線の公立4高校が統合され、鷹巣駅から徒歩15分の農林高校跡地に2011年4月、秋田北鷹(ほくよう)高が開校した。鷹巣行き列車に生徒が集中し、1両きりの編成だった車内は毎朝、大混雑。生徒の要望を受け昨年から2両編成に増やしたが、赤字路線にとってそれ以上の増結は、燃料費がかさんで厳しいのが現実だ。
存廃の目安は赤字2億円以内。ぎりぎりで踏みとどまってはいるものの、改善は容易ではない。自分たちにも何かできないか。生徒会を中心に、車内清掃やグッズ販売、車窓から楽しめる田んぼアートづくりなど増客対策に協力した。「スタディートレイン」はそんな高校生への、試験期間限定のプレゼントだ。
阿仁合駅を発車した3両は米内沢(よないざわ)駅で満席になった。その2駅先、合川駅から乗り込んできた3年生の片岡彩佳さんは「始発駅から勉強してきた人たちを見ると、座れなくてもやらなきゃってあせります」。7時38分の鷹巣駅到着まであと20分。さあ集中だ。
文 東芙美/撮影 馬田広亘
秋田内陸縦貫鉄道は角館駅(秋田県仙北市)~鷹巣駅(北秋田市)間の94.2キロ。 森吉山(1454メートル)のふもとにはクマなどを伝統的な手法で狩っていたマタギの集落が点在する。マタギ資料館を併設する打当(うっとう)温泉マタギの湯(TEL0186・84・2458)へは阿仁マタギ駅から送迎バスで5分。 11月30日から来年3月15日まで、農家の主婦が手作りした料理が各駅に停車するごとに運ばれ、車内で味わえるごっつお玉手箱列車を角館~阿仁合間で運行する。6900円。問い合わせは秋田内陸線旅行センター(60・1111)。 |
|
駅舎内のこぐま亭(TEL0186・82・3666)では、横浜の老舗でシェフを務めた麻木昭仁さんの本格洋食を味わえる。馬肉シチュー(写真、1000円)には、銅の生産量日本一を誇った阿仁鉱山の鉱員が食べたという馬肉がたっぷり。鉱山の歴史は駅徒歩2分の異人館・伝承館(82・3658)で。 |