六甲山地から流れ出る夙川沿いの町々は、閑静な住宅街として知られる。そんな土地柄か、梅田行きホームにある池では15匹ほどの錦ゴイが優雅に泳ぎ、駅の利用者を和ませている。その中に、19年前のあの日を生き延びたコイがいた。
「重機が突っ込んだのかと思った」。1995年1月17日早朝、首席助役だった山本泰宏さん(66)はドーンという衝撃で目が覚めた。阪神大震災。揺れが収まると駅から電話があった。「すぐに来てくれ」。ふだんなら車で20分ほどの道のりを1時間半かけてたどり着くと、ホームにも柱にも亀裂が走っていた。梅田寄りの高架橋は崩壊。「アメのように」曲がったレールが宙に浮いていた。
震災後、電車が止まった軌道を歩く人々の誘導を続けながら思った。「とにかく駅を元通りにしなければ」
昭和40年代に駅員が手作りして以来、利用客に親しまれてきた池の復活も「駅を元通りにする」ために欠かせない。断水で下がり続けた水位を、ためた雨水で補った。3月、甲陽線が復旧すると、山本さんはポリ袋にコイを入れ、二つ先の甲陽園駅にある池に運んだ。その間に夙川駅の池は傷んだ箇所を修復。セメントのあく抜きを何度も施した。避難していたコイが戻されたのは、夙川~三宮間に電車が再び走り出した6月1日だった。
錦ゴイの寿命は20~30年。だが、環境が良ければ人間と同じくらい長生きするともいわれる。「ほら、このグレーの。見覚えあるなあ」。口をぱくぱくさせて寄ってきた1匹を、山本さんが懐かしそうに見つめた。
文 曽根牧子/撮影 渡辺瑞男
阪急神戸線は、神戸三宮駅(神戸市)と梅田駅(大阪市)を結ぶ32.3キロ。 夙川沿いに南北4キロにおよぶ夙川公園は桜の名所。夙川駅から徒歩すぐ。 夙川駅から川に沿って北に延びる阪急甲陽線の隣駅、苦楽園口駅から5分ほど歩くと、野坂昭如の小説「火垂るの墓」で主人公の兄妹が横穴に住んだニテコ池がある。 甲陽線の終点、甲陽園駅から徒歩2分のケーキハウス ツマガリ(TEL0120・221071)は洋菓子の有名店。「シュー・ア・ラ・クレーム」(210円)や、クッキーの詰め合わせが人気だ。
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カトリック夙川教会(TEL0798・22・1649)は夙川駅から西に徒歩5分。作家の遠藤周作が洗礼を受けた。ネオゴシック様式の聖堂はステンドグラスやアーチ形を多用し、1932(昭和7)年落成。一昨年、兵庫県の景観形成重要建造物に指定された。 |