エメラルドグリーンに輝く黒部川に沿って、定員いっぱいの観光客を乗せたトロッコ列車がガタゴトと走る。今月3日、全線で今シーズンの運行が始まった。深いV字谷をゆっくりと約1時間半、列車は終着の欅平駅に到着。見上げれば残雪の山並み。川の音が心地いい。
駅の先にも線路が延び、トンネルに吸い込まれていく。「黒四(くろよん)(黒部川第四発電所)まで行くことができるんです」と黒部峡谷鉄道総務部の佐々木裕二さん(42)が教えてくれた。欅平の先は発電所関係者専用の輸送ルートだ。
ダムと発電所の建設現場に資材や作業員を運ぶため、旧日本電力が鉄道敷設を始めたのは1923年。しかし雪崩や洪水で何度も工事は中断し、欅平までの全線が開通したのはようやく14年後だった。登山者や地元の人らが便乗することもあったが、切符には「安全ニ付(つい)テハ一切保證(ほしょう)致シマセン」と書かれていた。
戦後、発電施設を引き継いだ関西電力が71年、黒部峡谷鉄道を設立。今ではシーズン中に延べ約70万人が乗る人気の観光鉄道となった。一方で現在も1日7往復、工事関係者専用列車が走る。
「険しい峡谷にこれほどの軌道をつくったなんて信じられないでしょう」と関電北陸支社の谷本悟さん(48)。急峻(きゅうしゅん)な崖にへばりつくようにレールを敷く工事はどれほど困難なことだっただろう。
トロッコから降りてきた若いカップルにそんな話をしてみた。「えー、知らなかった」「でも、何かカッコイイっすね」。駅前広場の木の上に、ニホンザルの親子が顔を出した。
文 永井美帆/撮影 浅川周三
黒部峡谷鉄道はいずれも富山県黒部市の宇奈月駅と欅平駅を結ぶ20.1キロ。11月30日まで運行予定。乗車券はインターネットや電話などで事前予約できる。問い合わせは同鉄道営業センター(0765・62・1011)。 黒部川本流に架けられた猿専用の釣り橋、川底からの高さ60メートルの後曳(あとびき)橋、積もった雪が一年中残る鐘釣駅前の万年雪など、沿線には雄大な自然をトロッコから間近に見られるポイントが多くある。 宇奈月駅前の黒部川電気記念館(TEL62・1334)では流域の電源開発の歴史や水力発電の仕組みを学べる。午前7時半~午後6時。
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関電と富山県は毎年、黒部ルート見学会を開催。欅平駅から先の専用鉄道=写真=で黒四へ、さらに黒部ダムに至る。今年は6月11日~11月4日。欅平駅発と黒部ダム駅発、各30人(要予約、抽選)。実施日や応募条件などは事務局(TEL076・442・8263)へ。 |