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三ノ宮駅(兵庫県、JR神戸線)

「火垂るの墓」 少年の最期の柱

三ノ宮駅
昭和初期から駅を支えてきた柱の陰に、今も人々はたたずむ
三ノ宮駅 三ノ宮駅

 阪急電鉄や阪神電車、神戸市営地下鉄に接続し、一日約12万人が利用する大都市の中心駅。中央改札口を出た構内を支える白く太い円柱は昭和初期のものだ。

 アニメや映画にもなった小説「火垂(ほた)るの墓」の主人公、戦災孤児の清太は駅の柱の根元で息を引き取った。1945(昭和20)年8月15日の終戦から約1カ月後のこと。「駅構内には家族を失い、寝床のない子どもたちの姿が目立った。弱い者から飢えて死んでいった」と作者の野坂昭如さん(83)は回想する。

 この年の6月5日の空襲で神戸は壊滅した。これを合わせて3回の大規模な空襲で7千人以上が犠牲になり、街には戦災孤児があふれた。空襲を経験し、戦争の語り部を続けている西阪順三さん(81)も終戦直後、柱に寄りかかっている子どもたちの姿をよく目にした。焼け野原になった駅周辺には闇市が立ち、ガード下で百人近い靴磨きの少年たちが進駐軍将兵の靴を磨いていたそうだ。

 60年代から70年代にかけての再開発事業で駅前は一新した。駅もまた90年から改良工事が行われ、ホテルやカフェが入るターミナルビルができた。

 「今の三ノ宮駅は美しい。だが僕には飢えた子どもの顔、艶(つや)のあるギャバジンを身にまとった進駐軍の後ろ姿が二重写しに見える」と野坂さん。西阪さんも「駅はすっかり変わってしまったけど、いろいろなことを見てきた柱だけは残って欲しい」と話した。

文 土田ゆかり撮影 渡辺瑞男

 

沿線ぶらり

 JR神戸線は東海道線大阪駅~山陽線姫路駅(兵庫県姫路市)間87.9キロの愛称。

 三ノ宮駅から徒歩6分の神戸市役所展望ロビーは午後10時まで無料開放。六甲山やポートアイランドなどの夜景が見られる。

 神戸駅から徒歩10分の大倉山公園は明治の実業家、大倉喜八郎の別荘跡。ゲートボール広場北側には「神戸空襲を記録する会」が昨年8月15日、神戸への空襲の犠牲者のうち1752人の名前を刻んだ「いのちと平和の碑」を建てた。6月1日(日)午前10時、158人の「刻銘追加式」。問い合わせは中田代表(078・642・2518)。

 

 興味津々
 

 終戦後、高架下にできた闇市の流れをくむのが、元町駅までの三宮高架商店街「ピアザkobe」=写真。元町~神戸駅間の元町高架通商店街、通称モトコーと合わせて約2キロ、幅2メートルの通路の両側に店がひしめく。

(2014年5月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)