日曜日の正午過ぎ、「ハチロク」の愛称でおなじみの8620形蒸気機関車が引く「SL人吉」が熊本から到着した。ホームにはファンや観光客らに交じり、手製の旗を列車に向かって振る集団が。ひときわ目立つ彼らは一体、何者なの?
旗には「ありさハチロク見送り隊」の文字に、SLとチワワ!の絵……。SLを見送りに来たのかしら。「ありさ」ってこのワンちゃんの名前ですか?
「いいえ。私たち、有佐(ありさ)駅の方から来ているんです」と島田弘美さん(42)。見送り隊の主宰者だそうだ。地元の名物列車をもり立てようと、2009年に結成したと教えてくれた。隊員は10人ほど。隊長はチワワの「おとぉさん」。
週末になると、自宅近くの有佐駅周辺から人吉駅まで車で列車を追いかける。その距離、ざっと65キロ。先回りして車の窓から旗を振ると、乗客は「また、あの人たち!」と驚き、でもすぐ笑顔になって手を振り返してくれるのだそうだ。
熊本駅へと列車が折り返すまでの約2時間、ホームで機関士や客室乗務員らと雑談をし、リピーターの乗客と「久しぶり」とあいさつを交わす。宮田秀樹隊員(31)は「交流の輪が広がりました」とうれしそうだ。
午後2時38分、戻りのSL人吉が駅を出発。隊員たちはすすで黒ずんだ旗を振って見送ると、車に乗り込む。「安全第一がモットー」。そう言って、帰りも列車を追いかけていった。
文 岩本恵美/撮影 馬田広亘
JR肥薩線は、八代駅(熊本県八代市)と隼人駅(鹿児島県霧島市)を結ぶ124.2キロ。 観光列車「SL人吉」は(金)~(日)を中心に運行。ゴールデンウイーク中は休まず走る。瀬戸石駅では運がよければ、昨年引退した球磨川最後の船頭、求广川(くまがわ)八郎さんが川の対岸から手を振ってくれる。 人吉駅から徒歩5分の青井阿蘇神社の本殿と拝殿、楼門などが熊本県初の国宝に指定されている。桃山様式の多彩な装飾が施されたかやぶき屋根の建物は圧巻だ。問い合わせは人吉市役所観光振興課(0966・22・2111)。
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人吉名物といえば球磨(くま)焼酎だが、ちょっと変わり種も。野菜ソムリエが厳選した地元産野菜を使った野菜ばなしは、人吉市内の深野酒造(TEL0966・22・2900)が開発。ショウガや高菜など27種類の野菜と米などの穀物を球磨川の伏流水で仕込んだ。500ミリリットル1000円から。 |