「学校や公園の近くに駅があったらなあ」「市も鉄道も、そんな金ねえって」「それなら俺たちでつくっべ」――。
2002年6月、山形県長井市に小さな駅が誕生した。県立長井工業高校と市のシンボル、あやめ公園の目の前。市民が望み、市民がつくった駅だ。
「本当に俺たちだけで?」。そんな声もあった。「あやめ公園駅建設賛同の会」会長を引き受けた若狭嘉政さん(78)らは企業や地区を説いて回った。応援する人が次第に増え、1年余りで1100万円を超える寄付が集まった。
「長井は舟運で栄えた商人の町。必要なものはお上に頼らず、自分たちの手でやろう。そんな気概があるんです」
しかし、集まった金額でつくれるのはホームのみ。待合室をつくるには足りない。そこで手を挙げたのが工業高校だ。PTAからの寄付約80万円で材料を購入し、授業やクラブ活動の一環として建てることにした。「国交省の建築基準に合わせるのに苦労しました」と指導した元教諭、菊地繁さん(71)。設計から施工まですべて生徒が中心となり、およそ2カ月かけて待合室が完成した。
駅の保全管理は今も工業高校が担う。放課後、ホームにほうきを手にした生徒たちの姿があった。「きれいになったねと近所の人が声をかけてくれるんです」と生徒会長の高橋靖主さん(17)。
あやめの季節はもうすぐ。ますます作業に身が入る。
文 永井美帆/撮影 鈴木愛子
山形鉄道フラワー長井線は赤湯駅(山形県南陽市)と荒砥駅(白鷹町)を結ぶ30.5キロ。 江戸時代に最上川の舟運で栄えた長井市の市街地には今も水路が走り、酒蔵や商家などの歴史的建物が点在する。 市内の長沼孝三彫塑(ちょうそ)館(TEL88・4151)は、地元出身の彫刻家が残した作品を展示する。300円。(月)休み。山一醤油(しょうゆ)(TEL88・2068)は1789年創業。醤油とこうじ、和がらしなどを混ぜて熟成させた「あけがらし」(140グラム、683円)は、江戸時代から変わらない製法で作られる。
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駅に隣接する「あやめ公園」では6月15日(土)~7月7日(日)、長井あやめまつりを開催。希少な「長井古種」をはじめ、約500種100万本が見頃を迎える。夜はライトアップも。500円、小中学生200円。問い合わせは長井市観光協会(0238・88・5279)。 |