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上野駅(東京都、JR東北線ほか)

戦後を見守ったベニヤの壁画

蒸気機関車が主役だったころは、すすで黒く汚れ、何度か水洗いしたという
蒸気機関車が主役だったころは、すすで黒く汚れ、何度か水洗いしたという
蒸気機関車が主役だったころは、すすで黒く汚れ、何度か水洗いしたという 地図

 朝倉文夫の「翼の像」で待ち合わせ、平山郁夫のステンドグラスの下で切符を買う。数々の美術作品が彩る上野駅。中央改札の上には、何とものんびりした絵。縦6×横27メートルの大壁画「自由」だ。

 戦後の混乱が残る1951年の年の瀬に掲げられた。戦争で身よりや家を失った引き揚げ者や浮浪者の姿も目立つ雑踏の構内。駅を和やかにしたいという広告会社が提供企業を集めて依頼し、猪熊弦一郎(1902~93)が周囲になるべく広告をつけないことを条件に制作した。

 物資不足の時代。下地は厚さ約7ミリのベニヤ板。「進駐軍から調達したペンキが案外長持ちしてね」と話すのは、住み込みで猪熊の助手をしていた画家の荒井茂雄さん(94)。空襲で窓ガラスが1枚もなくなった川崎の工場跡を借り、火鉢で指を暖めながら描いた。

 東京の「北の玄関口」を海女や猟師、スキーヤーなど東北ゆかりの群像が見守る。「先生は北国の方々を温かく歓迎したかったんです」と荒井さんは振り返る。「包容力と純朴さが絵にも出てるでしょ」。54年には初の集団就職列車が走り、大勢の若者が壁画の下をくぐった。

 駅は2002年に改装。猪熊も学んだ、上野の山の東京芸術大の学生らも壁画の修復に加わった。

 「長年使っている駅なのに、なじみすぎて気付かなかった」。福島県から上京する両親を迎えにきた50代の女性が、壁画を見上げて笑った。

文 塩見圭撮影 上田頴人 

沿線ぶらり

 JR上野駅は、東北線をはじめ山手線など計11路線が乗り入れ、京成線と東京メトロ銀座、日比谷線に乗り換えられる。

 御徒町駅から徒歩4分、燕湯(つばめゆ、TEL03・3831・7305)は都内の銭湯では唯一の国の登録有形文化財。1950年創業で朝湯が人気。日暮里駅から6分のスカイ ザ バスハウス(TEL3821・1144)は江戸時代以来の銭湯を改装した現代美術ギャラリー。

 旧万世橋駅のホームにあるカフェ&和酒 N3331(TEL5295・2788)は、上り下りの中央線電車に挟まれて飲み物や料理を楽しめる。秋葉原駅から4分。

 

 興味津々
引揚桟橋 width=
 

 中央改札を出てすぐ左、駅構内にあるフランス料理店、ブラッスリーレカン(TEL03・5826・5822)は、2002年の駅改装時に開業。1932年につくられた旧貴賓室を改装し、アールデコ調の空間で料理を味わえる。ランチコース1700円から。

 

(2014年12月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)